疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第1章 書き直しのプロローグ
第1話 執筆に人生を捧げた男の終わり


 ひたすらにキーボードを打ち続ける。

 キャラも、ストーリーも、世界観も最高の出来だ。

 練りに練った伏線だって完璧だと自信を持てる。

 このラストは読者には予想できないはずだ。

 

「くくっ……」

 

 タイピングする指に力が籠り、気味の悪い笑みが零れてしまう。

 読者がきっと予想できないであろう展開を思いついて書いているときほど脳汁が溢れ出す瞬間はない。

 

 だが、しばらく経てば厳しい現実が待っている。

 

 

【結果:一次選考落選】

 

 

 何度その文字を見たことだろうか。

 苦し紛れにネットに投稿したところで、誰も感想をくれない。

 本当はわかっていた。

 

 小説家としての才能なんて俺には欠片もないのだ。

 

 書けば書くほど現実が突きつけられる。

 一次選考すら突破できず、落ち続けて何年になるだろうか。

 

「ハッ、感想通知……!」

 

 苦し紛れにネットに投稿した作品に感想ついた。期待に胸を膨らませて開いてみる。

 

[話が難しくてわからない。もっと面白い話書けるようになってから投稿してねw]

 

 ようやく感想がついたと思って開いたら、そこには煽るようなクソみたいな感想。

 ふざけるな。一瞬でも期待した俺がバカだった。

 

「読解力のない低能が……義務教育からやり直せ!」

 

 缶ビールを煽ってスマホをベッドへと投げつける。柔らかいところに叩きつけたのはまだ理性が残っていたからだろう。

 

 俺は小説家を名乗ることもできない、底辺を這いずり回る虫だ。

 学生時代の青春も、社会人になってからの人間関係も全てを放り投げて俺は小説を書き続けた。

 

 全てを投げ打って夢にオールインした結果がこの有様だ。

 アラサーで、友人なし、彼女なし、貯金なし、ここ数年家族からの連絡なし。

 社会人やってるおかげで最低限のコミュニケーション能力はあるが、職場以外では使う機会がない。

 勤めているIT企業での扱いは悪くない。仕事はできないけど。

 

 わかっている。努力したところで報われるわけじゃない。わかっていた、はずだったのだ。

 才能がないのに、そこに向かって全力で努力をしてしまった。それが俺の人生に突き付けられた答えだ。

 

「そろそろ潮時なのかもな……どうせプロになんてなれやしないだろうし」

 

 心が弱っているせいか、ネガティブなことばかりが思い浮かぶ。

 

「やめたところで、俺には何もない」

 

 俺が持てる全てをかけて小説を書いてきた。

 それが報われたことなんて一度だってなかった。今更別の生き方なんてできやしない。

 

「なら、やることは一つだよな」

 

 ぐしゃりと缶ビールを握り潰す。

 ベコベコにへこんだはずのメンタルが音を立てて元に戻っていくのを感じる。

 

「結果が出るまでやるのが努力だ」

 

 単純な話だ。書店に並んでいる小説やネットのランキング、そのほとんどが俺の書いたものより圧倒的につまらない。いつも何でこんな作品がと思いながらキーボードを打ち続けた。

 

 答えは簡単だ。

 どんな要素でも突出したものがあれば、目に留まる可能性がある。そして、偶然が重なれば大勢の目に留まり人気が出る。

 

 そのためにはどうすればいいのか。

 多種多様な作品を短期間で大量に書けばいい。

 少なくとも執筆速度と内容の面白さには自信がある。

 

「やってやる……!」

 

 今までも働きながら一日五千文字くらい書くのは余裕だった。

 それを倍以上に増やせばいい。

 それと同時に書き方の改善も怠らない。小説家になるためにも、もっと戦略的に動かなくてはいけない。

 

 狙うのはライトノベル。レーベルの中でも、ある程度売れていて編集部が求める作品の傾向が明確なところ。

 応募先を一つに絞り、過去の受賞作や刊行作品を徹底的に分析した。

 編集部の求める空気感を学び、選考シートが公開されているレーベルには積極的に送って評価を糧にした。

 

 スロースターターは論外。序盤で一気に引き込む展開が必要だ。

 

 とにかく、最初の一ページで読者を掴めなければ意味がない。

 もっとわかりやすく、もっとシンプルに。伏線は答えを書くくらいがちょうどいい。

 ただ決してブレるな。俺の書きたいものを流行りやテンプレでパッケージングするくらいの感覚でいけ。

 

 まだだ。まだ足りない。

 より面白いものを書くためにも、圧倒的に時間が足りない。

 

 食事は流動食に変えて時間を節約し、風呂も最低限汚れを落としてすぐに済ませる。会社の昼休憩もギリギリまで小説を書き続ける。人の目なんて気にするだけ無駄だ。

 俺には何もない。だから、失うものだって何もないのだ。

 

 今度こそ夢に挑戦するため、本当のオールインを見せてやる!

 

 

 

 それから五年後。

 俺はスマホのカレンダー通知の音でタイピングの手を止めた。

 今日は小説大賞の四次選考結果発表の日だ。

 

「へ、へへ……今回は二作品最終選考に残ってる」

 

 一回の応募期間の内に六作品を提出し、そのうち二作品が最終選考まで残った。

 残っていたのは、俺が一番つまらないと思いつつも手癖で書いたラブコメと異世界転生モノだった。

 

「やっぱ感性ズレてんのかな、俺……う?」

 

 ふいに視界がぼやけてまともに前が見えなくなる。

 

「あ、が……!」

 

 突然襲った胸の痛みに俺はゴミだらけの床へと倒れ込む。衝撃で栄養ドリンクのビンが倒れて散乱する。

 息が苦しい。指先からどんどん熱が失われていく感覚が襲う。

 

 ああ、俺死ぬのか。

 

 どこか他人事のようにそんなことを想った。

 そして、ワンチャン生きてたら、もっとリアルに死の描写をしてやろうと決意して俺はそのまま意識を失った。

 

 

 田中奏太(たなかそうた)。ペンネーム、北大路魚瀧(きたおうじうおたき)

 

 享年三十二歳。死因、過労による心不全。

 

 

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