疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第100話 夢の予兆

 私の名前は田中愛夏。

 どこにでもいる中学二年生だったが、最近はお兄ちゃんの個性的な友達と絡むせいか、普通がわからなくなってきたところだ。

 お兄ちゃんが宿題を手伝ってくれたおかげで、私はこうして夏休みに旅行へ来ることができた。

 高校の友人グループの旅行に妹が参加するなんて場違いもいいところだけど、せっかくの機会を逃したくはなかったのだ。

 

 なんせ、うちの中学にはナイト先輩みたいな超絶イケメンはいないからね!

 

 気遣いができる高身長のイケメン。お兄ちゃんとは真逆のタイプの彼に私はぞっこんだった。

 最近じゃ、結婚生活を送る夢まで見てしまっている始末である。我ながら舞い上がりすぎて恥ずかしいくらいだ。

 

 それに今日はナイト先輩の過去に触れ、メンヘラ激ヤバ幼馴染の撃退にも成功した。お兄ちゃんには感謝である。

 いつも飄々としていて余裕のあるナイト先輩も素敵だったけど、本音を吐露するナイト先輩の姿も素敵だった。

 

「……いや、そういうことじゃなくて」

 

 自分の考えを振り払うように、目の前の鉄板に集中する。今は、焼きそばを作っている最中だった。

 具材を炒めながら、ふと顔を上げると、お兄ちゃんの姿が見当たらないことに気がついた。

 

「あれ、お兄ちゃんは?」

 

 周囲を見渡しながら、隣にいた由紀ちゃんに尋ねる。

 

「カナタなら部屋で執筆してるよ」

 

 由紀ちゃんは、いつの間にか焼いていたマシュマロを頬張りながら、あっけらかんとした調子で告げた。

 

「はぁ!? 旅行中だし、まだバーベキューも終わってないのに!」

「あいつからしたら、資料は十分揃ったから執筆したいって感じなのかもね」

「最近マシになったと思ったのに、あの執筆マシーンめ……」

 

 本当にお兄ちゃんはどうしようもない。普通、旅行に来てまで執筆する?

 

「ま、いいんじゃない。小説を書いてこそのカナタだからね」

 

 由紀ちゃんは肩をすくめながら、焼き上がったマシュマロを一口で食べ、もう一つ串に刺していた。手品かな?

 

「由紀ちゃんはそれでいいの?」

 

 ちょっと前。お兄ちゃんと由紀ちゃんは喧嘩をした。

 理由は、お兄ちゃんが周りの人間をキャラとして見ているからというもので、由紀ちゃんも自分がただのキャラとしてしか見られていないことに怒ったようだ。

 事の顛末を聞いても、仲直りできたのが不思議でしょうがない。

 むしろ、お兄ちゃんはよくあのお姫様に説教できたものだ。

 

「いいの。あいつはあいつなりのやり方で、あたしを大切にしてくれるみたいだから」

 

 きっと仲直りできたのは由紀ちゃんの懐が広いからなんだろうなぁ……。

 

「それに好きな人が夢のために頑張り続けてるのに、応援しなくてどうするのって話じゃない?」

「いい女すぎるでしょ。早く結婚しなよ、お義姉ちゃん」

「あははっ、そう呼んでもらえるように頑張らないとね」

 

 巨乳の女神アフロディーテさんと沖縄美人の喜屋武さんもお兄ちゃんに惚れているみたいだけど、あの執筆マシーンを支えられるのはたぶん由紀ちゃんだけだ。全力で協力せねば。

 それにしても、当の本人はせっかくの旅行なのに執筆優先……お兄ちゃんが作家志望なのは知ってるけど、もうちょっと楽しもうとは思わないんだろうか。

 

「げっ、お兄ちゃんスマホ置いてってる」

 

 テーブルの上にぽつんと置かれたスマホを見つけ、思わず眉をひそめる。

 

「あいつ、あんなにスマホ欲しがったのに扱い雑よねー。執筆に取り掛かると携帯手元に置かない癖があるのも原因なんだろうけど」

「もう既に何回『スマホどこいったっけ?』って家で聞かれたかわからないよ」

 

 ため息をつきつつ、スマホを手に取る。

 

「とりあえず、置いといてあげるか。由紀ちゃん、焼きそばお願いできる?」

「任せて、残さず食べるよ!」

「お願いしたのは調理だよ」

 

 本当にこの食いしん坊万歳は……まあ、そこが可愛いんだけども。

 

「ん?」

 

 そのとき、ポケットに入れていたお兄ちゃんのスマホが、突然振動した。

 

「もしもし?」

 

 いつもの癖で、つい反射的に出てしまった。

 

『突然のお電話失礼いたします。こちら田中カナタ先生の携帯電話でしょうか?』

 

 電話口からは男性の落ち着いた声が聞こえてきた。

 

「はい、田中カナタは兄のペンネームですが……」

『私、株式会社丸川シンフォニア文庫編集部の佐藤という者でございます』

「佐藤さん、ですか?」

 

「「ん?」」

 

 横で由紀ちゃんとアフロディーテさんが同時に顔を上げる。

 

「あっ、二人は関係ないから」

 

 同じ苗字の由紀ちゃんとアフロディーテさんが反応する。こういうとき、よくある苗字はややこしい。いや、田中の私も人のこと言えないけど。

 驚きつつも、声の調子を落ち着ける。

 シンフォニア文庫って、確かお兄ちゃんが応募していた小説大賞のレーベルだったような……。

 

「どういったご用件でしょうか?」

『田中先生にお聞きしたいことがございまして……失礼ですが、お兄様はご不在でしょうか?』

「いえ、いるんですけど今執筆中で……」

『執筆中、ですか』

 

 電話の向こうで、佐藤さんが軽く笑った気がした。

 

「ええ、書き始めると周りが見えなくなるタイプなんで……応募が終わってからもずっと書いているんです」

『なるほど、田中先生は根っからの作家なんですね』

 

 何となく、その言葉に少し嬉しくなってしまう。お兄ちゃんはいつだって本気だった。そのことを出版社の人にわかってもらえたような気がして。うんざりしていたはずなのに、何故だか誇らしかった。

 

『それでは大変恐縮ですが、先生の執筆作業に区切りがつきましたら、折り返しお電話いただくようお伝えいただけますか?』

「わかりました。兄に申し伝えます」

『ありがとうございます。それでは失礼いたします』

 

 そこで編集部の佐藤さんとの電話は終わった。何というか、終始丁寧な人だったなぁ。

 

「何だったの?」

「シンフォニア文庫の編集部の人だったみたい。お兄ちゃんに聞きたいことがあるって」

「もしかして……最終選考突破したのかな!」

 

 由紀ちゃんが期待に満ちた目で見る。

 

「聞きたいことがあるって言ってたから決まりかはわからないけどね」

 

 私はスマホを見つめながら、そっと呟いた。

 

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