疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第101話 折り返しは迷惑のかからないように

 執筆作業にも区切りがついた。ひとまず、一万文字以上は書けたのでよしとしよう。

 

「あー……疲れない身体って最高だ」

 

 高校生の肉体は数時間集中して執筆したところで疲労感がない。目も霞まないし、肩もこらない。社会人時代の俺が聞いたら嫉妬で発狂しそうな話だ。

 軽く背伸びをしながら、机の上を片付けようとしたとき、ふと視線の端に何かが映った。

 

「ん、スマホと……メモか?」

 

 スマホが文鎮代わりにされ、その下に小さなメモが挟まれていた。

 手に取ってみると、愛夏の字で短く要件が書かれていた。

 

『お兄ちゃんへ シンフォニア文庫の編集者の佐藤さんから電話があったよ。折り返してほしいって!』

 

 シンフォニア文庫の編集者――その文字を見た瞬間、俺の心臓が跳ねた。

 

「お、折り返したい……!」

 

 だが、時間はすでに夜中だ。編集者がいくら遅くまで働いているとはいえ、業務時間外に電話をかけるのはさすがに失礼だろう。というか、俺だったら業務時間外に掛かってきたところで電話には出ない。

 そもそもそんな非常識な職場じゃなかったけどな。

 

『田中君。退勤してる営業さんへのメッセージはスラッグの予約投稿とか使ったほうがいいよ。人によってはそのまま対応しちゃうからね』

 

 うーん、思い出せば思い出すほど俺の上司は気遣いの塊みたいな人である。まあ、今はそれどころじゃない。

 

「くそっ、こんな時に限って!」

 

 焦る気持ちを抑えながら、スマホの画面を見つめる。時計の針は十一時を指していた。

 

「仕方ない。明日、朝一で掛け直すか」

 

 そう自分に言い聞かせながら、俺は震える手でスマホを握りしめた。

 

「一旦、気持ちを落ち着けよう……」

 

 どうにも今までたどり着けなかった領域に辿り着いたことで冷静じゃなくなっているようだ。

 浮かれすぎは厳禁。一周目でもようやくきた感想に飛びついて最悪な気持ちになったことを忘れるな。

 

 賞を取ろうが取らなかろうが、俺のやることは変わらない。

 ただ最高の小説を書くために、最高のキャラを生み出し、彼らを最高の結末へと導くだけだ。

 深呼吸をして気持ちを静める。こんなときにタバコがあれば一瞬で落ち着けるのだが、吸えないのだからしょうがない。

 

「これで我慢するか」

 

 俺は持ってきていた棒つき薄荷キャンディーを口に含む。口がすっとする感覚が、一周目に吸っていたメンソール系のタバコの味を思い起こしてくれる。

 

「やっぱ、アイブラ吸いてぇ……」

 

 俺はぼんやりと天井を仰ぎ見た。窓の外では、遠くで波の音が静かに響いている。夜の静けさが心地よく、さっきまでの焦りも次第に薄れていく。

 カーテンの隙間から月明かりが差し込み、部屋の中に淡い光の筋を描いていた。

 スマホの画面に映る自分の顔は、いまだに興奮と緊張が混ざった表情をしている。

 

「ん、やけに静か――やっべ、バーベキューの片付け!」

 

 外が静かということは既にバーベキューはお開きになってしまったのだろう。

 俺は急いで立ち上がり、スマホをポケットに突っ込むと、部屋を飛び出した。

 

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