疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第103話 結果が出るまで努力した兄を慕う妹

 困ったことに全然眠くない。

 俺も日中、海ではしゃいでいたはずなのだが、編集部から電話があったという事実に興奮してしまい、どうにも気持ちが落ち着かない。

 

「仕方ない、もっかい外に出るか」

 

 静まり返ったコテージの廊下を歩き、玄関の扉を開ける。外に出ると、夜風がひんやりと肌を撫でた。頭を冷やすにはちょうどいい。俺は深く息を吸い込み、潮の香りを肺いっぱいに満たした。

 そのときだった。

 

「……お兄、ちゃん?」

 

 不意に、震えるような声が背後から聞こえた。

 振り返ると、そこには愛夏が立っていた。彼女は俺を見た瞬間、まるで言葉を飲み込んだかのように目を見開き、その場に立ち尽くしていた。

 

「愛夏? どうしたんだ、こんな時間に」

「っ……!」

 

 俺が声をかけた瞬間、愛夏の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。

 

「えっ、おい。どうした?」

 

 驚く俺の声も気にせず、愛夏は唇を震わせると、そのまま俺に向かって駆け寄り、ぎゅっと強く抱きついてきた。

 

「うぅ……ぐすっ……お兄ちゃん……!」

 

 まるで何かに怯える子供のように、俺の胸に顔をうずめ、肩を震わせながら泣き続ける。

 

「お、おい……どうしたんだよ、いきなり」

 

 普段の愛夏からは考えられない行動に俺は固まってしまう。

 彼女はしっかり者で、俺に対してもどこかドライな態度を崩さない。それなのに、目の前の愛夏はまるで小学生のときのようにただただ泣きじゃくるばかりだった。

 俺は困惑しながらも、背中を軽くぽんぽんと叩いた。

 

「大丈夫か? 怖い夢でも見たのか?」

 

 しかし、愛夏は何も答えない。ただ、俺の服をぎゅっと握りしめ、涙を流し続けるだけだった。

 俺は深くため息をつき、彼女が落ち着くのを待つことにした。

 しばらくすると、愛夏はようやく鼻を啜りながら顔を上げた。瞳にはまだ涙の痕が残っているが、さっきよりは落ち着いたようだ。

 

「取り乱して、ごめん」

「まったく、怖い夢って……子供じゃないんだから」

 

 俺もつい最近に悪夢を見て泣いたことがあるのは内緒だ。

 

「……そうだね」

 

 愛夏は遠い目をして、儚げな笑みを浮かべた。その表情がいつもより大人びて見えたのは、月明かりのせいだろうか。

 コテージの外は静かだった。遠くから聞こえる波の音が、まるで世界の境界線を曖昧にしているかのように感じる。

 二人きりのこの時間だけが、まるで別の世界に存在しているようだった。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。今、楽しい?」

 

 唐突に、愛夏が問いかけてきた。

 

「ああ、昔からは考えられないほど楽しいぞ。あっ、編集さんの電話取ってくれてありがとな」

「編集さん?」

「お前が出てくれたんだろうが」

 

 愛夏は一瞬きょとんとした後、じわじわと表情が笑顔へと変化していった。

 

「そっか……そう、なんだ……!」

 

 彼女の声はどこか噛みしめるような響きを帯びていた。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。一つ、いいこと教えてあげる」

「何だよ、急に」

 

 俺がそう聞き返すと、愛夏はニッと悪戯っぽく笑った。

 

「その電話。事前に受賞者への確認で来るやつだから期待していいよ」

「おいおい、無駄に期待させるのは――」

「断言する。お兄ちゃんは、結果が出るまで努力したんだよ」

 

 俺を見つめるその瞳は真剣で、何かを確信しているように感じた。愛夏の言葉が心のなかにじんわりと広がっていく。

 

「ははっ、ありがとな」

 

 頭をくしゃくしゃと撫でてやると、愛夏はくすぐったそうに身をよじった。

 

「でも、ここからが本当のスタートラインだ」

「わかってる。わかってるけど……無茶だけはしないでね。執筆に没頭しすぎて過労死とか笑えないから」

「そうだな。それだけは、本当に笑えない」

 

 何せ、その失敗は既に経験済みだからな。

 

「それじゃ、もう寝るね。おやすみ……バイバイ、お兄ちゃん」

 

 愛夏は最後に小さく手を振り、ゆっくりとコテージに戻っていく。

 その背中を見つめながら、俺は不思議と寂しさを覚えるのであった。

 

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