疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第112話 金賞受賞

「悪い、ヨシノリ。電話だ」

「どうぞ」

 

 ヨシノリは俺の様子を察して微笑む。

 どうやら愛夏を通じて、編集部から電話があったことは知っていたようだ。

 

「はい、田中です」

『いつもお世話になっております。丸川株式会社シンフォニア文庫編集部の佐藤です』

 

 再び聞いた編集の佐藤さんの声は、少しだけ柔らかく、だが丁寧に、そして確かに告げた。

 

『改めましてのご連絡となります。先日お電話でご案内させていただいた通り、田中先生の応募作品〝ムチムチ可愛いポニテ幼馴染の隣は譲らない〟が、第24回シンフォニア文庫小説大賞前期にて金賞を受賞されました』

 

 正式な言葉での通知。

 わかっていても、自然と胸が高鳴る。

 

「ありがとうございます」

 

 小さく答えると、佐藤さんが続ける。

 

『選考会でも非常に話題になりまして。大賞候補にも挙がっておりましたが、結果としては編集部一同の総意で〝金賞〟という形での受賞となりました』

「そうですか……」

 

 嬉しい。けれど少しだけ、心の隅で〝大賞ではなかった〟という言葉が引っかかっていた。

 

「ちなみに、大賞受賞作品は?」

『今回は大賞作品はありませんでした』

 

 うーん、どうせなら最初から大賞をとれていれば宣伝力も違ったのだが、高校生作家の看板としては十分なはずだ。

 

 そうだ。金賞だって、十分すごいことだ。

 今まで到達できなかった場所に来ることができたのだ。それも青春に関する経験不足のタイムリープ直後に書いた作品で、だ。

 それはつまり、今後書く作品は〝小説大賞で金賞を取った〟作品よりもクオリティが高いということにもなるのだ。

 

 そうやって自分を納得させ、滲み出る悔しさを胸に押し込める。

 どんなにすごい結果だろうと、大賞が取れなかったのは悔しいのだ。ガチャでSSRを引いても、目的のものじゃなきゃ不満を覚えるのと一緒である。 

 

『……納得いきませんか?』

「いえ、光栄です。本当に」

 

 佐藤さんが柔らかく笑うのが、電話越しにも伝わる。

 

『ぜひ、今後の書籍化や編集作業について、改めてご相談させていただければと思います。一度オンラインか実際にお会いして打ち合わせのお時間を頂戴できますでしょうか?』

「もちろんです。学校がない日か放課後なら、いつでも大丈夫です」

 

 そう答えると、佐藤さんは礼儀正しく通話を締めくくった。

 

『それでは、近日中に大賞サイトに登録されているメールアドレスの方へ日程のご案内をお送りいたします。この度は金賞の受賞、おめでとうございます』

「ありがとうございます。これから何卒よろしくお願いいたします」

『こちらこそ、よろしくお願いいたします。それでは、失礼いたします』

 

 通話が切れたあと、俺はスマホをそっと伏せ、雲一つない夏の青空を見上げた。

 

「その様子だと、いい知らせみたいね」

 

 隣からヨシノリの声がした。いつの間に釣り上げたのか、彼女の右手には大きなサイズのザリガニがつままれていた。ザリガニは両手を挙げて威嚇していたが、俺にはそれが小説家デビューを祝ってくれているようにも見えた。

 

「ああ、その、えっと……」

 

 まだ未発表の情報だ。守秘義務は守らなくてはいけない。

 

「言わなくてもわかるわよ」

 

 狼狽えている俺に微笑むと、ヨシノリは小さく呟く。

 

「……約束、だもんね」

「なんか言ったか?」

「ううん、何でもない。あっ、カナタ。ザリガニかかってるんじゃない?」

 

 ヨシノリに言われて視線を水面に向けるが

 

「おい、ザリガニかかってな――っ!?」

 

 反射的にヨシノリのほうを振り向くと、唇に柔らかい感触があった。

 目の前には長い睫と切れ長の三白眼。

 そして、瞼に惹かれたオレンジ色のアイシャドウ。

 ゼロ距離で俺とヨシノリは、互いに目を見開いたまま静止する。

 

 一体、何が起きているんだ。

 唇に当たる柔らかい感触に、脳が痺れて思考がまとまらない。

 

「あ……」

 

 それからヨシノリは慌てて飛び退くと、口元を手で隠しながら耳まで真っ赤になった。

 

「な、なんで急にこっち向くの!? ほっぺにするつもりだったのに!」

「えっ、何? 何の話だ?」

「約束したでしょ! 作家デビューしたらほっぺにキスって!」

「あっ、あー……」

 

 エレベーターアクションのときにした約束か。適当に決めたからすっかり忘れていた。

 つまり、ヨシノリは俺の気を逸らしている内に、頬にキスをしようとして俺が振り向いた。それで口にしてしまったというわけか。

 

「ど、どうしてくれんのよ! あたしのファーストキス!」

「俺だって初めてだよ」

 

 一周目のそういうお店を除けば、だが。

 ラブコメ書くのに経験ないのはどうなんだと思って一回だけ行ったことがあるが、普通に自家発電でいいとなったのは今でも覚えている。

 

「責任とってよね!」

「そっちからしたんだろうが!」

 

 言い合いながらも、俺たちは目を逸らす。

 その唇に残る微かな感触だけが、妙にリアルで心臓の鼓動が早まる。

 

 一周目の()()のときと違って、今回は小説の糧になりそうだ。

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