疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第121話 答えが同じだからって途中式すっ飛ばしていいわけじゃない

 再度、佐藤さんに平謝りしてから電話を切った。

 ……なんだかどっと疲れた。

 

「とりあえず、送ったデータを佐藤さんに確認してもらうので、採用するかはちょっと待ちでお願いします」

「じゃあ、次は宣伝用イラストでも描く?」

「トト先。俺の話聞いてました?」

 

 ダメだこの人。

 ()()()()()()()が最優先すぎて手綱を握れる気がしない。

 勢いづいたトト先を止めることは、もはや不可能だった。

 原稿の上で、迷いのない線がどんどん入れられていく。

 目の前で、自分の作品のキャラたちが神絵師の手によって形になっていた。

 高揚感はあるが、これは制作進行的にアリなんだろうか……と、不安も膨らんでいた。

 

「東海林先輩を呼ぶしかない……」

 

 こうなったら神頼みだ。

 漫研で過ごしていてわかったが、トト先は基本的に人とコミュニケーションを取らない。

 そんな彼女が唯一まともにコミュニケーションを取り、ちゃんと話を聞く相手が東海林先輩なのだ。

 そもそも凄腕とはいえ、癖が強すぎるトト先が未来でプロをやれているのも、彼女のフォローがあるからじゃないかと俺は睨んでいる。

 

「ミハリは夏期講習」

 

 神は死んだ。

 

「東海林先輩って、兼部してるわけでもないのにあんまり部室こないですよね」

 

 漫研において、漫画そのものを描いている人間はトト先くらいで、あまり部室に来ない人も多い。

 ヨシノリのように兼部している人なんかは、部活の合間に漫画を読みに来るだけで出席率は悪い。

 その点、裏方的な立ち位置で漫研に貢献している東海林先輩があまり部室にいないのは意外だったのだ。

 

「ミハリは勉強頑張ってるから」

「まあ、見るからに真面目そうですもんね」

 

 丸メガネをかけた真面目そうな女子。

 東海林先輩の外見はそんな印象だったが、中身は漫研を裏から牛耳るフィクサーである。

 

「ちな、学年七位」

「普通にすごい」

 

 トト先は赤点ギリギリだったらしいが、東海林先輩はその辺りしっかりしているらしい。

 夏期講習に参加しているということは、外部受験組か。

 トト先が受験なんてするわけないし、進路は別にするのだろうか。

 

「やっと夏期講習終わったよー……」

 

 それからしばらく原稿作業をしていると、廊下から聞き慣れた声が聞こえてきた。

 顔を上げると、東海林先輩がのんびりとした足取りで部室に入ってくる。

 ついに、救いの神が降臨した。

 

「東海林先輩。お疲れ様です!」

「……その様子だと、都々ちゃん関連で何か問題発生した感じ?」

 

 俺の顔を見るなり、先輩は小さくため息をついた。

 さすがの察しの早さである。

 

「はい、あの、ちょっと……いや、かなり」

 

 俺は、ここまでの経緯を手短に説明した。

 小説のイラストをお願いしたら、すでに表紙、口絵、挿絵すべて描き上がっていたこと。

 担当編集の佐藤さんにも連絡を入れて対処しようとしたが、勢いが止まらないこと。

 絵のクオリティには文句のつけようがないだけに、止めにくいということ。

 

「あの子、そういうとこあるからね」

 

 トト先の手元をのぞき込み、描きかけの原稿を一目見た先輩が、軽く頷く。

 

「なるほどね。よっぽど田中君の作品が気に入ったんだね」

 

 東海林先輩は、小さく笑って呟いた。

 

「田中君。都々ちゃんはそもそも制御とかできならいからうまく使うといいよ」

「うまく使うって……」

 

 果たして、この作画マシーンを使いこなすことなどできるのだろうか。

 

「気を遣う必要はないってこと。清書で出してこようが、ダメなとこは指摘して直させればいいの」

「いやいやいや!」

 

 本来、リテイクには費用が発生するものだ。それが清書なら尚更のことである。

 いくら漫研の先輩後輩だからって、そこはなあなあにしてはいけない。

 

「ダメだしされない前提で必要な途中過程をすっ飛ばしてるんでしょ? だったら、ダメだしされるクオリティのものを提出する都々ちゃんが悪いじゃん」

 

 そこまで言うと、東海林先輩はトト先の正面に回り込み、視線を合わせた。

 

「聞いてたよね、都々ちゃん」

 

 びくっ、と肩を震わせると、トト先は手を止める。

 

「描きたいシーンが無限にあるんだろうけど、まずはラフが必要じゃない?」

「原作読み込んだ上で全部最高のクオリティで描いた。直すとこないから指摘もいらない」

「改稿もまだなのに?」

「あとはせいぜい誤字脱字と表現の修正だけ。内容の展開を大きく変えてもバランスが崩れる。だから変えるつもりはないでしょ、カナぴ」

「それは、その通りです」

 

 トト先は、原作を読み込んだ上で俺がどういう修正を行うかも加味してイラストを描いていた。

 それ自体は凄いことだが、やっぱり一言ほしかったところではある。

 

「ほら、問題ない」

「問題ないのは都々ちゃんだけでしょ」

 

 そこで東海林先輩の目がすっと細められる。

 

「田中君や担当編集さん。それに出版に関わる人たちだって確認は必要だよ」

「結果が変わらないんだから無駄」

「答えが同じだからって途中式すっ飛ばしていいわけじゃないんだよ」

「っ!」

 

 そのとき、俺はトト先が動揺するのを初めて見た。

 

「自分が他人からどう思わようがどうでもいい。良いモノができれば関係ない。その考えはね、自分の首を絞めることになるよ」

 

 なんだろう。俺にもすごく刺さるのだが……。

 ただ東海林先輩の言っていることは、ヨシノリと再会してから身に染みて感じていたことだった。

 東海林先輩の言葉に、トト先は口を噤む。

 

「それにこれは田中君の作品だよ。好き勝手は自分の作品だけにしなさい」

 

 優しくも強い口調だった。

 俺はただ、そのやりとりを見守るしかなかった。

 

「……わかった。今度からちゃんとラフで出す」

「よくできました」

 

 東海林先輩がにこっと笑って言うと、トト先は眉を八の字にして頷いた。

 どうやら、納得はしたらしい。

 

「東海林先輩……ありがとうございました」

「気にしないで。都々ちゃん、気持ちが先走るだけで、さ――悪気はないんだよ」

 

 遠い目をして呟いた東海林先輩の言葉が、妙に胸に響いた。

 

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