疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第125話 約束の焼肉

 夕方の錦糸町駅南口を出ると、生温い風が肌を撫でる。

 

「南口に来るのはなんか新鮮だな」

「カナタって、錦糸町に来ることあるの?」

「映画見るときは、ここの北口のほうか船堀だからな」

 

 隣を歩いていたヨシノリが口を開いた。

 

「ねぇ……ホントにここでいいの?」

「ああ、予約してあるから間違いないぞ」

「金賞取ったからって、いきなり高級焼肉なんて……!」

 

 ヨシノリは誰もが知る高級焼肉店の看板を見て目を輝かせた。

 今日のヨシノリは、普段のスポーティーな雰囲気とはまるで別人だった。

 黒のノースリーブブラウスに、ハイウエストの白いロングスカート。

 足元はヌーディーカラーのサンダルで、さりげなくネイルも施されている。

 髪は巻いてふんわりとセットされており、いつものポニーテールではない。

 変わっていないのはオレンジ色のアイシャドウくらいだが、それすらも今日の装いにはアクセントとして計算されたように馴染んでいた。

 

 たぶん、高級焼肉に行くことを考慮したファッションにしたのだろう。

 これはこれでありである。

 

「めちゃくちゃ似合ってるし綺麗だけど、服装に気合い入れすぎだろ」

「こっちは緊張してんの! 高校生でこんな高いとこ普通こないから! あと、褒めてくれてありがとね!」

 

 ちょっと恥ずかしそうにそっぽを向いたヨシノリに、つい笑みが零れる。

 

「今日は俺の奢りだから気にせずたんまり食えよ」

「言ったわね?」

 

 エレベーターに乗り九階へと上がり店内に入ると、焼肉の香ばしい匂いが漂ってきた。

 

「予約の田中です」

「二名でご予約の田中様ですね。お待ちしておりました」

 

 店員さんに案内されて席に着くと、ヨシノリは落ち着かない様子でそわそわしだした。

 

「ふ、普通さ、もっと大人になってからやるもんだよね。夕飯に高級焼肉って」

「大人でも金がなければ一生食わないだろ」

「……ちなみに、賞金いくらもらったの?」

「五十万だな」

「ごじゅっ!?」

 

 あまりの金額に、ヨシノリが椅子からずり落ちそうになりながら声を上げた。

 その目はまるで数字に魂を持っていかれたかのように泳いでいる。

 

「五万円とかだと思ってた……五十万円って、高校生が持つ金じゃないよ!?」

 

 その辺は高校生の金銭感覚なのだろう。

 社会人を経験すると、大金ではあるものの約二ヶ月分の給料くらいという悲しい計算ができてしまうのだ。

 

「全部が自由に使えるわけじゃないぞ。確定申告とかもあるし、結構税金で持ってかれるぞ」

「なにそれ怖……」

 

 目をぐるぐるさせながらも、ヨシノリは目の前のメニューに視線を落とした。

 

「一皿でこの値段か……」

「一番高いの頼んでいいぞ」

「いやいやいや! こんなの遠慮なくいけないって!」

 

 激しく首を振りながらも、ちゃっかりヨシノリは一番高いのを頼んでいた。

 どうやら、食欲が勝ったようだ。

 それから最初の皿が運ばれてきた瞬間、ヨシノリは呆然と目の前の肉を眺めた。

 

「うわっ……なにこれ、芸術じゃん……」

 

 網の上に置かれた肉が、じゅうじゅうと焼ける音を立て始める。

 香りが鼻をくすぐり、思わず腹が鳴りそうになる。

 

「ホント、ありがとね」

「俺が勝手に誘っただけだし。気にすんな」

「気にするよ。だって嬉しいもん。約束覚えててくれて」

 

 ふと、ヨシノリの目が柔らかくなった。

 焼き網の向こう、そのまっすぐな目を前に、俺は一瞬だけ視線を逸らす。

 

「じゃ、重版出来したら次は中華のフルコースだな」

「ふふっ、それは気が早いでしょ」

 

 そのまましばらく、何も言わずに肉を焼いて食べた。

 高校生二人で高級焼肉を静かにつついているという現実が、なんだか夢みたいだった。

 

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