疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第135話 東京ビッグサイト

 迎えたコミケ当日。

 俺たちは集合場所に集まりつつあった。

 東京ビッグサイトの逆三角形の屋根が、真夏の強い日差しを受けて輝いている。

 

 開場前の待機列には、大勢の参加者が冷却タオルを首に巻きながら、自分の目的のサークルへ最速で向かうための計画を練っていた。

 うだるような暑さの中でも、熱気と期待がその場をさらに熱く包み込んでいる。

 こういう空気は嫌いじゃない。

 

「眠い……ふぅあぁ……」

 

 ヨシノリがキャリーケースを引きながら、あくびをかみ殺していた。

 今日のヨシノリはいつもにましてスポーティな服装をしている。

 速乾性のTシャツに短パン。その下には黒いラッシュガードを着用している。

 

 要するに、普段バスケをするときの服装である。

 いつもと違うところは、キャップを被っていて首にはスポーツタイプの冷却タオルを巻いているところだろうか。

 眠そうにしているのは、俺とトト先のメイクアップのために早起きして動いてもらっていたからだ。

 早朝から本当にお疲れ様である。

 

「やっぱり、慣れない……」

 

 トト先のほうは、ここ最近たっぷりと睡眠を取らされたいたせいか肌艶が良い。

 無造作に伸ばしていたボサボサの髪も、現在はゆるふわ系にパーマがかかっている。

 

 正直、すっかり美少女へ変貌を遂げたトト先は一瞬誰かわからないレベルだ。服装こそ熱中症対策がされたものだが、シンプルながら素材の良さが光る仕上がりとなっている。

 これなら最悪身バレしても大丈夫なんじゃないかと思うほどである。

 

「おっはよー!」

 

 元気な声とともにやってきたのは、東海林先輩だ。

 クーラーボックスを抱え、腕まで覆うインナーまで装備して、サングラスをかけている。

 準備は万端の様子だ。

 

「うっわ、ミハリ先輩。その格好なんかガチ感ありますね」

「今日は特に勝負の日だからね、気合い入れないと! 由紀ちゃんも準備はいい?」

「しっかり持ってきてますよ」

 

 ヨシノリはニカッと笑うと、キャリーケースを軽く叩いた。

 

「なんだ。ヨシノリなんかやるのか?」

「ふふん。それはブースについてからのお楽しみってことで」

 

 不敵な笑みを浮かべると、ヨシノリは軽快な足取りで逆三角形の下へと向かうのだった。

 それから会場入りしたのは午前八時前。

 

 俺たちは西館のエントランスで集合し、そこから東館の搬入口へと向かう。

 スタッフの誘導に従い、サークルチケットと追加入場証を確認してもらいながら、無事に会場内へと足を踏み入れた。

 部長は今回、一緒に入場する予定だった知り合いのサークル代表が遅刻してしまったため、仕方なく外で待機してもらっている。

 

「この時間に入ると、空いてていいよね」

 

 東海林先輩が伸びをしながら言った。

 

「今のうちにコンビニでご飯とか買っちゃいな。あとここでトイレを済ませておいたほうがいいよ」

 

 サークルチケットで入場できるのは、参加者全体のごく一部。

 一般入場が始まる前の今、会場内はまだ嘘のように静かで移動も買い物も快適である。

 

「ビッグサイトの中ってこうなってるのね」

 

 ヨシノリが天井を見上げながら、声を漏らす。

 巨大な吹き抜けと、ガラス張りの壁面から差し込む朝の光。床は磨き上げられた無機質なタイルで、荷物のキャスターがゴロゴロと控えめな音を立てていた。

 

 エントランスホールの端にあるコンビニは、すでにサークル参加者で賑わい始めていた。俺たちもここで軽く朝食と飲み物を購入する。

 それから再び荷物を手にして、東館へと移動を開始した。

 

「ここは西館だから、そこの渡り廊下を通って東館に行く感じだな」

「おっ、田中君詳しいねぇ」

 

 俺の言葉に、東海林先輩が感心したように笑った。

 東京ビッグサイトは、西館と東館が長い通路で繋がっている構造をしている。

 連絡通路を、俺たちはキャリーケースを引きながら進んでいく。

 

「わぁ……なんか、でっかい建物ってだけでテンション上がるね」

 

 ヨシノリが目を輝かせながら周囲を見回していた。

 彼女にとっては初のコミケ。目に映るすべてが新鮮なのだろう。

 天井は高く、通路の途中にはイベントの案内パネルや企業ブースの設営風景が見え隠れしている。空調は効いているはずなのに、人の熱気がじわじわと広がりつつあった。

 

「今のうちに写真撮っとこ」

 

 トト先が無言でスマホを構え、足を止めて一枚、また一枚とシャッターを切る。

 たぶん、景色に感動しているのではなく資料用だろう。

 途中、ガラス越しに外の待機列が見えた。

 駅から誘導された長蛇の列が、まるで蛇のようにぐねぐねと続いている。

 

「待機列エグ……」

「そりゃ徹夜組と始発組がいるからね」

 

 東海林先輩の声に、俺たちは思わず身震いした。

 これが、コロナ禍前に行われていた夏の戦場の本気なのだ。

 

 やがて東館に到着し、搬入口から入り直すと、目の前に広がったのはまるで体育館数個分はありそうなだだっ広いホールだった。

 既に設営を始めているサークルもいくつかあり、カートを押す音、ダンボールを開ける音、スタッフのアナウンスが交錯している。

 

「よし、東館着。うちのスペースは東Aの壁沿いだね」

 

 東海林先輩がチェックリストを確認しながら先導してくれる。

 

「ここが、俺たちのブースか」

 

 広大な会場の中、壁沿いの通路にずらりと並ぶ机と椅子。

 その一角に腰を下ろした瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなる。

 何度も一般参加してきた場所だけど、今日は違う。

 

 俺たちは、頒布側なのだ。

 

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