疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第138話 見えてきた希望

 神保町から車なら、ビッグサイトまでそこまで時間はかからない。

 コミケは一般参加者の車での来場が禁止されている分、早朝のこの時間帯は周辺道路もまだそれほど混雑していないはずだ。

 早めに会場入りしていたおかげで異変に気づけたのは、不幸中の幸い。そう言い聞かせるしかない。

 

「……ひとまず、部誌が届く前提で動こう」

 

 両頬を軽く叩き、東海林先輩は表情を引き締めて立ち上がる。

 その目は既に、次の一手を考えるリーダーの顔に戻っていた。

 

「まず、私は部長に連絡して、そのまま外で待機してもらうように伝える。田中君は職員室に連絡。お友達が部室の鍵を受け取れるようにして。由紀ちゃんは更衣室に行ってアレの準備。都々ちゃんは……座って待機で!」

 

 即座に指示が飛ぶ。

 

「「はい!」」

「おけまる」

 

 俺とヨシノリが声を揃えて返事をすると、トト先は相変わらずマイペースに頷いた。

 この修羅場にあっても動じないそのスタイル、ある意味最強だ。

 俺はすぐさまスマホを取り出し、学校の職員室に電話をかける。

 その横でヨシノリは、キャリーケースを引きながら更衣室のあるエリアへと足早に向かっていった。

 

 俺も呼吸を整えて、電話口に集中する。

 頼む、どうか……先生、出てくれ。

 

『はい、慶明高校です』

 

 出た。

 声は少し眠そうだったが、確かに聞き慣れた職員室の応対だった。胸の奥で小さく安堵が灯る。

 

「あっ、長谷川先生! 俺です、一年B組の田中奏太です!」

『おー、田中か。どうしたんだ、そんなに慌てて』

 

 声の主は、俺たちの担任である長谷川先生だった。

 普段からアミの奇行を見逃していることからわかる通り、それなりに融通の利く人だ。

 

「コミケでトラブルがありまして、部室にある荷物を同じクラスの斎藤が持ってきてくれることになったので、鍵を渡してほしいんです」

 

 俺がそう告げた瞬間、電話口の向こうからもう一人の声が割り込んできた。

 

『失礼します!』

 

 ゴワスの声だ。どうやら本当にバスケ部の練習を放りだして来てくれたようだ。

 

『そういうことか……斎藤。漫研の鍵だ、早く田中たちのとこへ持っててやれ!』

『あざっす! 失礼しました!』

 

 バタバタとした足音とともに電話の向こうが騒がしくなった。

 状況が動いている。俺の手からも緊張がじわりと抜けていく。

 

『これでいいか?』

 

 足音が遠ざかるのと同時に、穏やかな長谷川先生の声が響く。

 

「ありがとうございます!」

 

 深く頭を下げた。電話越しでは見えないけれど、心からの感謝の気持ちが自然とそうさせた。

 通話を切ったあと、俺はすぐに東海林先輩のもとへ駆け戻った。

 

「部誌は持ってこれそうです」

「ありがとう、田中君。部長のほうにも連絡して、待機してもらってる。お友達が来たら合流できるように連絡先交換しておこう!」

「はい!」

 

 俺はスマホを取り出し、RINEの画面を開いて臨時グループを作成する。

 そこに、部長とゴワスを招待し、状況を共有する。

 

[田中奏太:ゴワス、着いたらここに連絡して部長と合流してくれ]

[斎藤隆盛:わかった! ちょうど姉ちゃんが車出してくれて。今乗り込んだところだ!]

[温泉川宰:斎藤君、ありがとう! 君のおかげで何とかなりそうだ]

 

 希望が見えてきた。

 東館のシャッターが閉まり、西館との行き来ができなくなるのは午前九時半。

 それまでに部誌を持ち込み、机の上に並べなければならない。

 間に合うかどうかの瀬戸際だ。

 

 時間的には、ギリギリ。

 それでも奇跡を信じるだけの根拠は、ようやく手に入った。

 頼む、間に合ってくれ……!

 

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