疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第139話 開幕まで、あと少し

 東館の会場内では、設営を終えたサークルがちらほらと姿を見せはじめていた。

 空調が効いているとはいえ、人の数が増えてくるにつれて、じわじわと熱気が溜まってくるのがわかる。

 

 そんな中、俺はスマホを片手に、入場口のタイムリミットを何度も確認していた。

 時計の針はすでに九時を過ぎていた。シャッターが閉まる九時半まで、あと三十分もない。

 そのとき、スマホのバイブが震えた。

 

[斎藤隆盛:着いた。今、東館近くのとこで降ろしてもらってる!]

 

 ゴワスからの連絡だった。

 どうやら無事に到着したようだ。

 

「来ました! ゴワスが会場外まで到着してます!」

「よし! 都々ちゃんはお留守番お願いね!」

「おけまる」

 

 東海林先輩はキャリーカートを引きながら早足で進んでいく。

 俺もそれに続くようにスペースを離れ、東館のサークル出入り口へ急いだ。

 入り口に到着すると、そこには四つのダンボールを抱えて立っているバスケの練習着姿のゴワスがいた。

 

 いくらトラブルがあったと言っても、入場できるのはチケットを持っている者だけ。

 中に入っているということは、部長の代わりに荷物を持ってチケットで入場したのだろう。

 

「奏太ッ!」

 

 ゴワスがこちらに気づき、声をかけてくる。

 

「持ってきたぞ、新刊! これだろ!」

「ゴワス、お前はマジで命の恩人だ! ありがとな!」

 

 俺は段ボールを抱え取ると、いったん邪魔にならないように脇にそれて中身をその場で確認する。

 間違いなかった。正真正銘、俺たちの新刊だった。

 

「本当に……本当に、ありがとう!」

「お礼はあとでな。とりあえず、間に合うんだろ?」

「ああ、お前のおかげでな」

「田中君のお友達だよね? 本当にありがと! ここに乗せちゃって」

「うっす!」

 

 ゴワスはキャリーにダンボールを乗せると、東海林先輩の代わりにキャリーを持った。

 

「部長さんの代わりに入場しちまったんで、俺も手伝いますよ」

「そんな、悪いよ……」

「気にしないでください。俺、バカだけど肉体労働は得意っすから」

 

 ゴワスは楽しげに笑うと、キャリーを引いていく。

 

「東海林先輩は一冊だけ持ってすぐにブースに戻ってください。見本誌の提出!」

「ああ!? そうだった! 行ってくるね!」

 

 東海林先輩が新刊を抱えてブースへ向かう。

 その際も走らずに、早歩きなのはコミケ参加者の習性だろう。

 

「そうだ。お姉さんはどうしたんだ?」

「俺と荷物を下ろしたら速攻で帰ってったぞ」

「有能すぎるだろ、お前の姉さん」

 

 あとで菓子折かなんか持っていたほうがいいだろうか。

 ちょうど、一周目で上司に教えてもらった良い店があるし、そこで買って後日改めてお礼に行くとしよう。

 

「普段は口うるさいけどな」

「それでも急に車出してくれるんだからいい人だろ」

「まあな。面倒見が良いから大学でも周りに頼られてばっからしいし」

 

 そうか。車を持ってるってことは十八歳以上で、今は大学生なのか。

 

「そうだ。あと、これ。姉ちゃんからだ」

 

 そういうと、ゴワスは手首にぶら下げていたビニール袋を掲げる。

 

「塩タブレットとパウチゼリーだ。熱中症に気をつけて、だってよ」

「神かよ」

 

 まだ会ったことがないのに、面倒見が良いということだけはよくわかった。

 それから混雑が始まる前、まさにギリギリのタイミングで、俺たちはスペースに新刊を並べることに成功した。

 

 列の整理、見本誌の回収、釣り銭や袋の確認。

 どれもが息の合った連携で、滑るように準備が整っていく。

 

 それから、九時半のシャッターが閉まり、開場まであと三十分。

 

「間に合った……!」

 

 俺たちはお互いに顔を見合わせ、小さく頷き合った。

 灼熱の夏コミは開幕まで、あと少しだ。

 

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