疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第144話 ケバブ

 屋外広場にはいくつもの屋台が並んでおり、祭りのような喧騒と、あらゆる食べ物の香ばしい匂いが立ち込めていた。

 その中でもひときわ存在感を放っていたのが、ケバブ屋のブースだった。

 

 ジリジリと照りつける太陽の下、灼熱のアスファルトに立っているだけで体力を奪われるこの環境で、俺たちはあえてその列に並んでいた。

 理由は簡単だ。ヨシノリが「我慢できない!」と駄々をこねたからである。

 

「カナタ、辛さはどうする?」

「激辛で。ヨシノリは?」

「うーん……中辛かなぁ」

 

 ヨシノリが注文して受け取ったケバブは見るからに赤い。

 俺たちは日陰に入り、並んでスポドリ片手にケバブを頬張る。

 油と肉汁と香辛料のパンチ力。夏に食べると何倍も美味く感じる。

 

「いただきます!」

 

 ヨシノリが勢いよくケバブにかぶりついた。ジュワッと広がる肉汁と、シャキシャキの野菜、そしてスパイスの暴力的なパンチ力。

 噛むたびに口の中が刺激と旨味で満たされていく。

 

「んぅ~おいしい! ケバブ最高ぉ!」

「やっぱ暑いときほどカプサイシン欲しくなるよな」

 

 一口、二口と食べ進めるごとに、汗が滲み、額から頬へと流れ落ちていく。

 けれど、不快ではなかった。

 むしろ、汗をかきながら豪快に食べることそのものが、この夏を全身で感じている証拠のようで、どこか清々しさすらある。

 

「カナタ。辛さマシマシだったけど、よく食べられるね」

「まあ、これくらいな」

 

 味覚がサ終しているから平気なだけだけどな。

 実際のところ、味の良し悪しなんて俺にはわからない。

 激辛でもなんとなく辛いとしか感じない。

 味覚が終わっているだけの話だが、それでも今この味は、何か記憶に残る気がした。

 

「俺はバカ舌だからわからないけど、この味は忘れない気がする」

 

 言いながら、紙に包まれたケバブを見下ろす。

 普段ならただの屋台飯で終わっていたかもしれない。

 けれど、目の前にはコスプレ姿で汗を拭うヨシノリがいて、こうして並んで食べている。

 それだけで、この食事が特別な記憶に変わっていく気がしたのだ。

 

「また、来たいな……」

 

 不意にヨシノリがそんな言葉を漏らした。

 

「こんなクソ暑くのにか?」

「うん。たぶん、暑くて、しんどくて、人混みでごった返してて……それでも、来年の今ごろ、また同じようにケバブ食べながら楽しかったなって思ってる気がするんだ」

 

 言い終えると、ヨシノリは口元を綻ばせてニッと笑った。

 

「だって、カナタが一緒にいてくれるなら、あたしはどこでも楽しいから!」

 

 汗ばんだ額にかかった髪を払う。

 その笑顔はいつもの数倍、眩しく見えた。

 

 その表情は、今までの表情の中でも一際――小説の糧になる笑顔だった。

 

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