疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第147話 新学期の始まり

 夏休みはあっという間に過ぎ去り、二学期がやってきた。 教室の窓から差し込む陽射しは、まだ真夏のように鋭くて眩しい。

 空気はじっとりと肌にまとわりつき、冷房の効いた室内ですら生ぬるい熱気が漂っている。

 

「暑っ……」

 

 廊下から戻ってきたクラスメイトたちがぼやきながら扇子やうちわをあおいでいる。

 制服のシャツはうっすらと背中に汗を滲ませ、机に腕を置けば、ぴたりと肌が張り付くような感覚がある。

 

「残暑ってこんな暑かったっけ?」

 

 ぐでーっと、机にヨシノリが机に突っ伏しながら下敷きを扇いでいる。

 

「おい、それ俺の下敷きじゃん」

「いーじゃん、どうせ扇ぐ用でしょ?」

「そりゃ名探偵ドイルの下敷きだからな。使いたくはない」

 

 ふと、思ったが下敷きをちゃんと下敷きとして使っている人ってどれくらいいるのだろうか。

 大抵の人は結局、夏の団扇か、冬の静電気発生装置にしか使っていないような気がする。

 

「おはよう、二人とも。充実した夏休みだったね」

 

 後ろから声をかけられて振り向くと、そこには爽やかな笑みを浮かべたナイトが立っていた。

 闇の幼馴染から解放されたこともあって、爽やかさが十割増しくらいになっている気がする。

 

「そうだな。旅行も楽しかったけど、担当編集さんとの打ち合わせやコミケもあったからな」

「コミケじゃ斎藤が大活躍だったわね」

「ゴワスには本当、救われたよ」

 

 それから掻い摘まんでナイトにゴワスの活躍を伝えた。

 

「へぇ、ゴワスもやるじゃないか」

「だろ?」

 

 俺が得意げに頷くと、ナイトはうんうんと満足そうに頷いていた。

 

「一学期から見ていた身としては、カナタがそうやってゴワスと仲良くなっているのが嬉しいよ」

「あー、まあ、最初は俺たちの仲、最悪だったもんな」

 

 一学期の勉強会やヨシノリを巡ったあれこれを思い出すと、よくここまで仲良くなれたものだと思う。

 

「斎藤も根は悪い奴じゃなかったんだけどね」

「まあ、ゴワスの悪い部分もカナタと仲良くなったおかげで改善傾向にあるみたいだし、雨降って地固まるって感じだろうね」

 

 ナイトの言葉に、ヨシノリもうんうんと頷いていた。

 最初はあんなに敵意むき出しだったというのに、人はちゃんと変われるものだ。

 

「そういうナイトは愛夏とどうなんだ?」

「一緒に映画を見に行ったよ。毎年やってるアニメ映画をね」

「あー、あれか。俺はヨシノリと公開初日に行ったわ」

「あんたの場合、前売り券と劇場配布のモンスター目当てだけどね」

 

 ヨシノリは呆れたように肩をすくめる。

 お前はお前で、バカみたいなサイズのポップコーンずっと食べてただろ。

 

「あいつも来年には部活引退して受験勉強だからな。いい息抜きになっただろ」

「愛夏ちゃんは慶明受けるのかい?」

「たぶんな。教えてくれないけど」

 

 一周目でも愛夏はここを受けていたし、今回はナイトと仲良くなったことでより受験したくなっているはずだ。

 おそらく一周目と変わらない結果になるだろう。

 

「おはようございます!」

「はいさーい!」

 

 ナイトと話していると、アミと喜屋武も教室に入ってくる。楽器は部室に置いてきたようだ。

 二人とも汗だくなところを見るに、軽音部で練習してきたところだろうか。

 

「おはよう。二人とも朝練終わりか?」

「はい。ドラムの子も入ってきたので、夏休み終盤からガッツリ練習できました!」

「文化祭に向けて、頑張るさー!」

「もうそんな時期か」

 

 アミの目はきらきらと輝いていた。

 汗を拭きながら、それでもどこか誇らしげに胸を張っている。

 

「それに最近は軽音部での練習動画もチャンネルにあげているんです」

「身バレとか大丈夫なのか?」

「練習中は仮面を付けているので大丈夫です!」

 

 制服でバレそうな気もするが、最悪個人が特定されなければ大丈夫か。

 

「チャンネル登録者も増えてきてますし、絶好調です!」

 

 アミは本当に楽しそうに笑うようになった。

 

「そーだ、カナタンたちも大活躍だったって聞いたよー」

「ネットで話題になってましたもんね」

 

 喜屋武とアミが揃って笑顔を浮かべる。

 あの日の熱気と、SNSで見かけた感想の数々を思い出す。

 俺たちのサークルは結構話題になっていた。

 まあ、一番話題になっていたのはトト先が美少女だったことについてだろう。

 

「そういえば、手芸部の人たちにもお礼言われたわ」

「お礼を言いたいのはこっちのほうだっての」

 

 手芸部の技術は本当にすごかった。

 あの瞬間、あの場所には、確かにヒロインである女騎士アイシャがいた。

 そう思えるクオリティだったと言えるだろう。

 

「お手洗いから戻るとき、めちゃくちゃ声かけられたのよね」

「いっそ、由紀ちゃんもコスプレイヤーデビューしたらどう?」

 

 ナイトが冗談交じりにそんなことを言う。

 

「やめてよ。柄じゃないって」

「だな。衣装のためにスタイル維持しなきゃだし、ヨシノリには厳しいだろ」

「ど・う・い・う意味かしら?」

 

 ヨシノリがむすっとした表情を浮かべて詰め寄ってくる。

 

「だって、我慢せずにいっぱい食べてるときのヨシノリが一番いいだろ」

「そ、そう? じゃあ、まあ、これからも遠慮せずに食べるけど……」

 

 俺の言葉を聞いたヨシノリは、そのまま板チョコを頬張りだした。

 板チョコそのまま一枚食べる奴いるんだ……。

 教室の隅で交わされるそんなやり取りを、周囲のクラスメイトたちが半ば呆れ、半ば楽しそうに見守っている。

 

「まーた、やってるよ」

「あのやりとり見てると、二学期が始まったって感じするよね」

「くっ、じれってぇな。俺、ちょっとやらしい空気にしてくるわ」

「やめなよ」

 

 俺たちのやりとりってそんなにクラスの風物詩になっていたのだろうか。

 

「おっす! みんな久しぶりだな!」

 

 そんなやりとりをしていると、教室にゴワスが入ってきた。どうやらギリギリまで朝練だったようだ。

 教室に入ってきたゴワスは、汗だくで制服の裾をぱたぱたと扇いでいた。

 

「おはよう、ゴワス。夏コミじゃ世話になったな」

「気にすんな。ダチが困ってるのに放っておけないだろ?」

 

 すっかりこいつともいい友達なった。

 あのとき、一歩踏み出して正解だったと改めて思う。

 

「そうだ。結局バタバタしてて挨拶できなかったけど、お姉さんには改めてお礼に伺いたいんだけど」

「姉ちゃんは気にすんなって言ってたぞ」

「そういうわけにもいかないだろ」

 

 あの日、突然のことにもかかわらず、ゴワスを乗せて俺たちの新刊を届けてくれたのだ。

 もしあのとき間に合っていなければ、あの夏コミは成功どころか地獄の記憶になっていたかもしれない。

 

「でも、なんで荷物の郵送間違いが起きたんだ?」

「それについては一通り調査済みだ」

「そうか。なら、良かった」

「安心しろ。再発防止のため、徹底的に原因は潰す予定だ」

 

 そのためにも、準備は進めてきたからな。

 あとは本人次第だ。

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