疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
それから数日が経った。
何もする気が起きなかった。
漫画どころか、学校の宿題すら手につかなかった。
ああ、それはいつもか。
机の上に並んだ文房具、積み上げたチラシの山、インクで塗り潰された原稿。
どれも触れるのが怖かった。
目に入るだけで、あの日の光景がフラッシュバックする。
インクがこぼれて、滲んで、原稿を黒く塗り潰していった瞬間。
その上に広がる、どうしようもない空白の感情。
虚無に吸い込まれるような喪失感だけが、今も胸の奥で燻っている。
お母さんはあれから何も言わなくなった。
叱るでも、謝るでも、慰めるでもない。
まるで、あの夜の出来事ごと私たちの間に仕切りを置いたかのようだった。
私もそれを壊す気にはなれなかった。
言葉にした瞬間、あの痛みがまた蘇りそうな気がして怖かった。
そんなときだった。
「ミハリ!」
珍しく慌てた様子の都々ちゃんが、息を切らしながら私の家の前まで駆けてきた。
制服のままで、髪もボサボサで目の下には私のように濃いクマが浮かび上がっている。ここまで焦った顔の彼女を見るのは初めてだった。
そんな姿を見た瞬間、私はほんの少しだけ胸がざわついた。
何かが起きた。そう直感でわかった。
「これ、原稿! 再現したからまだ新人賞間に合う!」
都々ちゃんは肩で息をしながら、両手で原稿の束を差し出してきた。
大切そうに胸に抱えていた紙の束。
それは私が一枚一枚、魂を削って描き上げた、あの原稿を、再現したものだった。
そう彼女は一度読んだだけの記憶を頼りに、たった一週間で再現してきたというのだ。
「嘘、でしょ」
震えながら、私はその束を受け取り、一枚ずつめくっていった。
最初に目に飛び込んできたのは、キャラの表情。
描線は、私のものよりもずっと滑らかで、力強く、迷いがない。
構図もセリフも、確かに私が描いたものと同じはずなのに、何倍も生き生きとしていた。
ページをめくる手が、徐々に冷たくなっていく。
同じ話なのに、私が作ったときよりもずっと面白い。
テンポも絶妙で、引き込まれる。
ここまでの差が出るものなのかと、目の前が霞んでいく。
「ごめん。うろ覚えのとこは適当に面白くした」
「適当に、面白く」
その言葉が、まるで胸に刃物のように突き刺さる。
私が苦しんで、もがいて、ようやく生み出したもの。
時間をかけて、自分の血肉を注ぎ込んだあの物語を、彼女はあっという間に完成させてしまった。
「はっ、はは……」
その瞬間、私の中で何かが壊れた音がした。
積み重ねてきた努力や執念が、一瞬で土台ごと崩れ落ちていく。
心の奥にしまっていた誇りや自信という名の小さな灯火が、風に吹き消された。
自分が頑張ってきたことが、まるで全部、無意味だったような気さえしてしまう。
私が苦しんで描いていたあいだ、彼女はただ楽しく描いていただけなんだ。
そして、そのほうが圧倒的に、面白かった。
悔しいくらい面白い。どうしようもなく、面白い。
これが読者の目に触れれば、確実に賞を取るだろう。
そう思わせるくらい、完成された作品だった。
一つだけ、はっきりとわかったことがある――努力は、夢中に敵わない。