疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第16話 ハンドクリームのおすそ分け

 春だというのに、朝の教室はまだ少し肌寒い。

 入学したばかりの高校は新しい環境の緊張感で満ちていたが、俺はヨシノリやアミ、ナイトと談笑しながら、ゆったりとした時間を過ごしていた。

 一周目では味わえなかった青春の時間がここにはあった。

 

「それにしても、四月なのにちょっと寒いですね」

「春って何だかんだ気候が安定しないよね」

「十年後なんてもっと酷くなってるだろうな」

 

 実際なっている。令和ちゃんは温度設定がわかっていないとネタにされていたくらいである。

 

「空気も乾燥してるのは何とかしてほしいよねー。手が荒れちゃうよ、まったく……」

 

 そう呟くと、ヨシノリはぺちゃんこになったハンドクリームのチューブを取り出し、蓋を開けて空気を入れてよく振る。あー、歯磨き粉のチューブでよくやるやつだ。

 あれやると、残り少なくても中身がしっかり出てくるんだよな。

 

 その瞬間、ぶぴぴっという空気が抜けるような音が隣から聞こえてきた。

 

「うわっ、出しすぎた!」

「あるある過ぎる……」

 

 思った以上にハンドクリームが出てしまい、ヨシノリは少し困った顔をしていた。

 

「カナタ。ちょっと、手ぇ出して」

「おう」

 

 言われた通り、素直に手を差し出す。

 すると、ヨシノリは俺の両手を包み込むようにして、ゆっくりとクリームを塗り広げ始めた。

 

「はい、ハンドクリームのおすそ分け」

「余ったの押し付けただけだろ」

「別にいいでしょ。あんたもタイピングばっかりで指カサカサなんだから。ケアはちゃんとしたほうがいいよ」

 

 そう言われて改めて自分の手を見ると、確かに指先が少し荒れている。長時間のタイピングのせいか、指先が若干乾燥して白くなっていた。

 

「じゃ、お言葉に甘えて」

「よろしい」

 

 指の間をなじませるように、優しくマッサージされる。ほんのり甘い香りがふわりと鼻をかすめ、思わず唾を飲み込んでしまう。

 

「……随分と丁寧に塗るんだな」

「別に普通でしょ? ちゃんとケアしないと、あとで後悔するんだから」

 

 ヨシノリはそう言いながら、俺の手の甲までしっかり保湿していく。普段からケアしていることもあって、彼女の手は思ったより柔らかかった。

 

「いや、これは……」

「わぁ……由紀ちゃん、大胆ですね」

 

 気がつけば、さっきまで談笑していたナイトとアミは黙って俺たちのやり取りを眺めている。二人だけではなく、クラスメイトたちもざわつき始めていた。

 

「あれ、あの二人、何してんの?」

「なんか手、絡ませてない?」

「いやいや、あれどう見ても恋人繋ぎじゃん……」

 

 ヨシノリは最初気にも留めていなかった。

 

「っ!」

 

 だが、ざわめきが広がる教室の中、急にヨシノリの動きがぎこちなくなった。

 

「ま、まあ、でも、ほら! これで指先のカサカサも治るでしょ!」

 

 無理やり誤魔化すように声を張るが、耳まで真っ赤になっている。

 

 その姿を見て、ふと昔のことを思い出した。

 小学校の図工の時間、ヨシノリはボンドを出しすぎて余らせたことがあった。

 

『うわ、出しすぎた……なあ、カナタ。これ使えよ』

 

 そう言いながら、当時のヨシノリは俺に余ったボンドを押し付けてきた姿が、ふと現在のヨシノリに重なって見えた。

 

「……ヨシノリは昔から変わんないな」

「え、何が?」

「いや、何でもない。ハンドクリーム、サンキューな」

 

 俺は苦笑しながら手のひらを開いた。

 

「どういたしまして。これで今日も快適にタイピングできるでしょ?」

 

 ヨシノリはそう言って自分の手をパンパンと叩くと、小さく息を吸って平常心を取り戻していた。

 

 俺は残ったハンドクリームの香りを感じながら、なんとも言えない気持ちで手を見つめる。

 今日も執筆が捗りそうだ。




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