疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
翌朝。
教室に入った瞬間、視界の端に、こちらをじっと見つめるアミの姿が映った。
「おはようございます、カナタ君」
いつもの柔らかい声色。いつもの丁寧な口調。
なのに感じるのは、冷ややかな圧。
「お、おはよう……」
背中に冷たい汗が流れる。心当たりしかない。
「実は私、伊藤先輩に相談されて配信のやり方をお教えしたんです」
「は、はは……あんまり面識のないアミのとこに行くなんてな」
「伊藤先輩はやりたいことのためなら周囲を気にせず行動する人ですらかね」
そこで笑顔を浮かべると、アミはスマホを取り出して画面を見せてきた。
「ところで、おっぱいギターちゃんってなんですか?」
アミの投稿したギター演奏動画のコメント欄には〝おっぱいギターちゃん〟や〝ロッキンイカレ女〟〝まさかの本名〟というコメントがあった。
トト先の配信から伝書鳩が飛んどるがな。
「さ、さあ」
「カナタ君。私は、怒ってるわけじゃないんです」
「……はい」
「むしろ界隈で話題になって登録者数も増えて、再生数も跳ねました。ただ本名バレはよくないですよね?」
「おっしゃる通りで」
「そこで提案です」
アミはニコリと笑った。
いつものように丁寧で柔らかい笑顔。ただし、完全に主導権を握る者の笑みだった。
「提案?」
「はい。伊藤先輩の配信、すごく面白かったです。カナタ君とのやり取りも好評でした。あの空気感、定期的に続けるべきだと思うんです」
「あれ、完全に放送事故だったんだけど……」
「視聴者は楽しんでました。それに伊藤先輩だけでなく、カナタ君も一緒に配信する形なら、作家としての宣伝にもなりますよ?」
「作家としての宣伝、か」
作者は表に出ると、作品のノイズになる。
作品の面白さと作者の人格は別なのは当たり前だが、それができない読者は多い。
政治的思想を垂れ流していたり、不倫をしていたり、そんな作者の話を聞くだけで作品が嫌いになることは責められない。
だが、未来では自身がVtuberとなって配信活動を行っている漫画家は大勢いた。
ラノベ作家でも、創作論を語ったり、配信を行ったりしている人はそれなりにいた。
配信活動を通してファンと交流することは、作品のファンをつなぎとめる武器になる。
何より話題になったタイミングで作家としての人気、それもトト先との組み合わせの人気が出ることは〝ポニテ馴染〟の宣伝になる。
金のかからないプロモーション活動なら、やって損はない。
炎上のリスクそのものと組まなきゃいけないのがネックだが。
「もしチャンネルをしっかり作って運用するなら、私のチャンネルにも定期的に触れていただきたいんです」
「なるほど、相互協力ってわけか」
「はい。視聴者動線の確保は、どちらにとってもプラスですよね」
言ってることは完全に戦略家のそれだった。
アミも強くなったなぁ……キラキラネームを気にして周囲に怯えていた頃とは大違いだ。
「ということで、カナタ君。伊藤先輩との創作ラジオやってみませんか?」
「それ、本当に提案か?」
「もちろんです。」
にこーっ、と穏やかな微笑み。
俺の背中にはまた冷たい汗が流れた。
「わかったよ。俺にもメリットのある話だ。チャンスは掴まないとな」
「ありがとうございます。期待してますね、カナタ君♪」
アミはにっこりと満足げに微笑むと、自分の席へと戻っていった。