疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
放課後の部室に入ると、液タブのカバーが外れているのが目に入った。
画面には、引いた線がいくつも重なっている。
「東海林先輩?」
「あっ、田中君」
こちらに気づいた先輩が、ちょっと気まずそうに苦笑する。
「都々ちゃん、買って満足しちゃったみたいで全然使ってないでしょう? せっかくだし、もったいないなって思って……それに、使い方くらいは教えてあげられるようになっておきたくて」
あれだけ配信中に盛り上がって、視聴者たちからの後押しもあって購入した液タブ。
導入初日は面白がって少し触っていたトト先だが、それ以降はずっとアナログに戻っていた。
買ったばかりの液タブが机の隅で埃をかぶり始めているのを見て、なんとも言えない気分になっていたので、東海林先輩が使うことでこの液タブも報われるだろう。
「それで、それっぽく見えるように、ちょっと触ってみてるんだけど……うーん、なかなか思うように動いてくれない」
そう言って苦笑する先輩の目は、どこか真剣だった。
「でも、なんか少しずつ慣れてきたかも」
そう言いながら、ショートカットキーを確認し、さっきよりも滑らかなストロークで線を引いていく。さっきまでカクカクだったラインが、徐々に形を持ち始めていた。
「……いまのはちょっと思った通りにいったかも」
小さく呟いたその言葉に、ほんの少しだけ自信が混ざっていた。
俺は黙ってその背中を見ていた。
「それにしても、液タブくらい高価なものでもこんなにあっさり使わなくなるなんて、トト先はさすがですよね」
「基本的に都々ちゃんって、物に執着しないんだよね」
「人にも執着しないですけどね」
「よく知ってる」
東海林先輩は笑いながらトト先の原稿作業をぼんやりと眺める。
「できた」
「トト先。今日は何を描いてたんですか?」
「カナぴ。よく聞いてくれた」
トト先はそう告げると、おもむろに作業を終えた原稿を俺に渡してきた。
「これって……何のキャラですか?」
そこに描かれていたのは、ツインテールのやけにゴテゴテした戦闘メイドという印象を受けるキャラクターだった。
「カナピ、冗談キツイ」
ふふん、と鼻を鳴らすとトト先は続ける。
「カミラの聖剣のキャラデザのラフ。あといくつか見せ場のシーンをピックアップして描いた」
「俺、まだネットでも言ってないのに、どうして」
「おっぱいギターちゃんから聞いた。カミラの聖剣が漫画になるって」
「アミ……」
アミに悪気はないし、イラストレーターのトト先なら知っていると思って言ったのだろう。
「おめでとう、田中君! ついに商業でも漫画原作者だね!」
「あ、ありがとうございます」
人伝に東海林先輩に知られるくらいなら、初めから言っておけばよかった。
笑顔を浮かべて祝福してくれている東海林先輩に、どこか気まずさを覚えてしまう。
「それでカナぴ、どう?」
トト先は自信満々の表情で俺を見てくる。
元々頼もうとは思っていたが、情報を察知して用意してくるとは恐れ入った。
今回、トト先は俺に〝漫画家とっととカク太郎〟を売り込む姿勢でこれを用意してくれたのだ。
そう思うと胸が熱くなる。
だからこそ、どう言ったものかと迷いが生じる。
「トト先。ネットに投稿されているのは読んでくれたんですよね」
「うん。カミラも面白かった」
「ありがとうございます」
原作を読んだうえで、彼女はこのキャラデザと参考シーンを描いたというわけか。
トト先もクリエイターだ。ここは率直に伝えさせてもらおう。
「ただこのデザインで進めるのは厳しいと思います」
「へ?」
俺の言葉に、トト先の目がぱちぱちと瞬いた。