疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第168話 キャラクターデザイン

 部室内の空気が張り詰める。

 正直、俺の作品を気に入って自分から描きたいと言ってくれるのは嬉しい。

 だが、これを見てそのまま作画を担当してもらいたいとは思えなかった。

 

「どこが不満」

 

 トト先は信じられないとばかりに俺に詰め寄る。

 怖いからGペンは一回置いて欲しい。

 

「えっと、せっかく描いてもらったのにあまり失礼なことは言いたくないというか……ほら、キャラシートで詳細も見ずに描いたわけですし!」

 

 できるだけ婉曲に、柔らかく伝えようとした俺に、トト先は不機嫌そうに顔をしかめて言った。

 

「自分は二回も原作を読んだ。シートなんていらない」

 

 その言葉に、少しだけ、ほんの少しだけ、苛立ちが募る。

 二回も読んでこれが上がってきたから困惑しているんでしょうが。

 原作を読んでくれたのはありがたい。感謝してもしきれないくらいだ。

 

 けれど、何度読んだって、キャラクターのイメージや世界観のニュアンスを完全に把握できるとは限らない。

 

「自分の完璧なデザインに不満があるなら全部言ってみればいい」

 

 それをキャラシートも見ずに理解したと断言し、自分の解釈で描いてきたものが正解だと疑っていない。

 俺の中にじわじわと熱がこもっていくのを感じながら、それでも努めて冷静な口調で言葉を継いだ。

 

「まず、キャラデザから言わせてもらいますが、キャラの描き分けがあまりできていません。特に主人公のアランとヒロインのカミラ、メイドのキュリアの顔立ちが似すぎています」

「そう、かな」

「あとカミラの瞳が切れ長すぎて子供っぽいあどけない感じがまるでしません」

「カミラは皇女だから顔立ちはこういう系のはずじゃ……」

「言動も行動も子供っぽいお転婆皇女っぽさがないんです。もっとクリクリとした瞳のイメージで俺は原作書いてました」

 

 ヒロインのカミラは主人公を巻き込み、次々にトラブルを起こすトラブルメーカーだ。

 普段は子供っぽい顔立ちで、ここぞというときにキリっとした表情のギャップが欲しいのだ。

 

「次にアラン。本人は問題ないですが、剣のデザインが特殊すぎます。これが一本一本他の騎士達にも配られているとは思えません。鎧も同様でデザインがごちゃごちゃしすぎです」

「主人公だから特別仕様にした」

「ここまで特殊な形状の剣や、動きづらくて着けづらそうなのを国から支給されるわけないと思います」

 

 デザインはカッコいいけど、実用性がまるでないデザインだ。これを騎士達が全員差して歩いている光景を想像したら違和感しかない。

 

「あと獣人に立体感がないです。参考シーンも言い方は悪いですが、獣人だけ浮いていて馴染んでいません」

「馴染んで、ない」

「一番の問題はメイドのキュリアです」

 

 トト先は原作を二回も読んだと言った。

 そのうえで、このキャラクターデザインである。

 キャラシートがなければ、仕方のないことだとは思う。

 

「キュリアは普段は獣人であることを隠して人間として過ごしているキャラです。耳も隠してある描写もされています。カチューシャじゃ耳が隠れないと思います。それと全体的に吸血鬼っぽいデザインになってますけど、通常の姿では耳を隠せば人間とほとんど見分けがつかず、八重歯くらいしか獣人っぽい特徴がないキャラなので、目が赤いのも違和感があります。大前提としてキュリアは吸血鬼じゃありません。ラストで苦渋の決断の末に、吸血鬼になるキャラなんです。あと武器のデザインまで上がってますけど、現時点では、城で働いているただのメイドですよ。ハッキリ言って、本編の何気ない日常を何よりも愛するキュリアというキャラクターイメージからかけ離れてます。そもそもカミラの聖剣はファンタジー世界を舞台としたミステリー小説です。ある程度、獣人にもリアリティが必要なんですよ。鳥の獣人でいえば、腕の部分が翼になったりしているわけですよ。腰や背中から翼が生えるというような構造は、このカミラの聖剣の世界ではあり得ないんです。メイド服も戦闘装束感が強いし、普段からメイドとして働いている姿が想像できませんよ、これじゃ。あくまでも、キュリアはただのメイド。キュリアはアラン達の日常を守るために吸血鬼になることを選ぶんです。だからキュリアはただの人間のメイド感が強いキャラクターである必要があるんですよ。トト先ほどの人が原作読んでおいてなんでそんなこと――」

「ちょ、ちょちょ、田中君! ストップ、ストップ!」

 

 両手をバタバタと振って、東海林先輩が俺の前に立ちはだかった。

 その顔は引きつり気味の笑顔で、額にはじわりと汗が浮いている。

 

「あっ、その、すみません……つい熱が入ってしまって」

 

 キュリアに関しては、一番思い入れのあるキャラクターだったため、修正点を指摘しているつもりがヒートアップしてしまった。

 何よりも、天才的な表現力を持つ彼女が原作を読んだうえで、こんなにイメージとまるで違うものを持ってくるとは思わなかったのだ。それもあんなに自信満々の表情で。

 

「参考シーンについてもいろいろ言いたいことはありますが、この辺にしておきます」

「えっ」

 

 トト先は、まだあったのかと言わんばかりに驚いた表情を浮かべていた。

 

「ごめんなさい。トト先なら大丈夫だろうと、勝手に期待してしまいました。一生懸命描いてきてくれたのに、失礼なことを言ってしまい大変申し訳ございませんでした」

 

 俺は深々とトト先に頭を下げる。

 しばらく頭を下げていると、トト先が何も言わないので顔をあげてみる。

 トト先は呆然とした表情で固まっていた。

 

「み゛」

 

 そして、奇声を発すると、その場にべちゃりと崩れ落ちた。

 

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