疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第4章 書き直しの楽譜
第180話 バーチャルシンガーAMURE


 今日も、音楽だけが私を支えてくれる。

 バーチャルシンガーAMURE。

 配信画面に映るのは、私が作り上げた虚像だけ。

 本当の私は画面の向こう側で、ギターを抱えて歌っている。

 誰にも知られることなく、誰にも見られることなく。

 けれど、ギターの音だけは嘘をつけなかった。弦を弾くたび、心の奥底に眠る想いが溢れ出してしまう。

 

「今日も聴いてくれて、ありがとねー。それじゃ、おつあみゅー」

 

 いつものように配信を終える。

 ベッドに身を投げ出し、天井を見上げると、ヤニで薄汚れた天井がまるで雲の向こうのように遠く見えた。

 もう何年もこうして夜を過ごしてきたけれど、この静寂に慣れることはない。音が消えた瞬間、心だけがぽつんと取り残される。

 

 友達なんて、最初からいなかった。恋人なんて、夢のまた夢だった。

 

 本名のせいで笑われて、からかわれて。教室に居場所なんてなくて、逃げるように不登校になった。そんな私を受け入れてくれたのは、ギターだけ。六本の弦だけが、私の声を理解してくれた。

 

「……面倒くさ。もう寝よ」

 

 お風呂に入るのも億劫だった。どうせ外に出てないし、誰とも会わない。汗もかいてない。そんな言い訳を重ねながら、そのままベッドに潜り込む。

 

 眠りに落ちると、またあの夢を見た。

 見覚えのない教室。着たことのない制服。そして、知らないはずの男の子。

 夢の中の私は、その男の子と一緒に笑っていた。友達に囲まれて、青春を謳歌していた。彼のことを、心の底から好きだった。

 

 創作に情熱を注ぎ、クラスメイトから「執筆マシーン」と呼ばれるほど熱心な男子。高校生で小説家デビューを果たし、漫画原作者としても活動する彼に、夢の中の私は恋をしていた。彼の横顔を見つめながら、胸が高鳴っていた。

 そんな、ありえたかもしれない日常を。

 

「はっ……!」

 

 汗ばんだ額を拭いながら、ゆっくりと目を開ける。

 現実が戻ってきた。壁に並ぶ配信機材。部屋の隅に立てかけられたギター。薄汚れたカーテン。散らかった部屋。

 夢の中の私と、今の私は、まるで別の世界にいる。

 

「……夢でしか叶わない青春、か」

 

 ボサボサの髪をかき上げながら、タバコに火をつける。紫煙を天井に向かって吐き出した。

 

「三十歳過ぎた独身処女の、痛い妄想ってやつかねぇ」

 

 自嘲の笑いが喉から漏れる。誰もいない部屋に響くのは、自分の声だけ。その虚しさが、胸の奥を締めつけた。

 

 佐藤愛美麗《さとうアフロディーテ》。

 

 本名だけど、心の底から嫌いな名前。

 キラキラネームと笑われ、からかわれ、いじめの原因になった呪いの名前。

 この名前から逃げるように不登校になって、気がつけばずっと一人だった。

 

 人生、ずっとソロプレイ。それが、私の現実だ。

 メジャーデビューして、オリ曲もたくさん出せて歌手活動も充実している。

 それでも、大好きなガールズバンドアニメを見るたびに思うのだ。

 

「私も友達とバンド組みたかったなぁ……」

 

 だが、高校時代の私に友達はいない。現実は非常である。

 

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