疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
店を出て、駅に向かっていく一同の背中を見送る。
それから、俺とヨシノリは静かに歩き出した。
並んで歩く帰り道は、がちま屋の賑やかさとは打って変わって静かで、なんとなく言葉を選びたくなる空気が漂っていた。
「カナタ。あんまり文化祭、ノリ気じゃないの?」
不意にそう問いかけてきたヨシノリは、歩幅を合わせながら、俺の横顔を覗き込むように見ていた。
「まあな。うちの高校の文化祭って、しょぼいからな」
誤魔化す気もなかった。口調が自然と投げやりになる。
「絵面的にも盛り上がってるイメージが湧かない。アニメとかドラマの文化祭みたいな華やかさがあるわけでもないし」
一周目の高校生活でも文化祭に心躍った記憶なんて一度もない。
準備に参加してる生徒も、やってる風の空気に乗ってるだけ。ただの青春ごっこをしてるみたいで、見てるこっちが冷める。
「そういうヨシノリはどうなんだよ。文化祭、楽しみだったりする?」
「んー……あたしも、正直あんまりかな」
苦笑いしながら、ヨシノリが髪をかき上げる。夜風に揺れるポニーテールが、ふわっと背中に触れた。
「体育館もグラウンドも使えないしね。うちの高校、運動部はほんとやることないんだよ。クラスのほうも、ナイト君が一生懸命まとめてくれてるけど……」
「あの有様じゃあなぁ」
「うん。意見は出すけど、誰も本気で決める気はないって感じ」
ヨシノリが、少し寂しそうに言う。
分かっているのだ。みんなが乗っかることでしか文化祭を楽しめないことを。
「あいつらが楽しんでるのは文化祭そのものじゃない。準備中に生まれる空気感のほうだ」
ああでもない、こうでもないって騒ぎながら、仲良くしてる感じだけが重要。
やりたいことなんてないくせに、何かをやってる体でいたいだけなのだ。
「でも、よく言うじゃない? 文化祭は準備の方が楽しいって」
「過程が楽しいのは、結果を見据えてるからだろ。目的もなく盛り上がってるフリしてるのは、ただの茶番だ」
「言い過ぎじゃない?」
「ただの事実だ」
この世は結果が全てだ。
過程をどれだけ誇ったって、結末が凡庸ならすべて霞む。
その結果を掴んだからこそ〝あの頃も頑張ってたよな〟と、過去に意味が生まれるんだ。
「結果を見据えて努力するって、簡単じゃないよ。カナタみたいにできる人、そんなにいないって」
ヨシノリの声はどこか優しくて、遠慮がちだった。
「結果を見据えなきゃ、そもそも努力にならないだろ」
俺は立ち止まり、夜空を見上げる。
曇りがちな空が広がるばかりの面白みのない、いつもの景色だ。
「結果が出るまでやるのが努力だ。ゴールも知らずに走ってるのは、ただの向こう見ずだろ」
「……なんか、そう言われるとグサッと来るなぁ」
ヨシノリが苦笑しながらも、どこか納得しているように頷いた。
そこで、ふと気になったことがあった。
「そういや、ヨシノリは何かやりたいことあるのか?」
隣を歩く彼女が、ほんの一瞬だけびくりと肩を揺らす。
「えっ、あたし?」
「ああ。夢とか、目標とか。そういうの、あるのか?」
「そんな大層なものはないよ。あたしもみんなと同じ」
暗くなった空を見上げるヨシノリの顔はどこか寂しそうだった。
「高校生なんてそんなものでしょ。明確に夢を見据えて行動しているのなんてカナタにトト先、ミハリ先輩、あとはあーちゃんくらいじゃないかな」
「そんなものか」
やっぱり俺には共感力がないのだと痛感させられる。
この二周目でヨシノリと再会し、友人に恵まれてもそれは変わらなかった。
「そんなもんでしょ。流行と恋愛、その場のノリで生きてるようなものだし」
「まあ、それはわかるんだけどな」
夏休み明けから男女ともに垢抜けた奴が増えた。
気になって情報収集してみれば、あちこちでカップルが誕生していたらしい。
ナイトに頼んで深堀してみたが、特にドラマチックな展開があったわけではなく肩を落としたのは記憶に新しい。
「文化祭も何をやるかより、自由時間で誰とどう回るかのほうがメインだし」
「創作における文化祭の描写でも重要視されるのはそこだからな」
これはラブコメでも貴重な存在だ。
日常を描く作品において、夏祭りや修学旅行、文化祭などはキャラクター同士の関係値を深めるイベントを起こしやすい。
「……ちなみに、カナタは誰と回る予定なの」
「あれ、ヨシノリと回るつもりだったけど、予定あったか?」
いつも隣にいたからついヨシノリと文化祭を回るつもりでいた。
いかんいかん。こういうところでヨシノリがいて当たり前だと思うのは俺の悪い癖だ。
「そっか、そうだよね!」
心の中で反省していると、俺の言葉にヨシノリは満足げに頷いていた。
「というか、誰と回る以前にクラスの出し物も決まってないだろ」
捕らぬ狸の皮算用にもほどがある。そういうのは、やることやってから考えるものだ。
「いっそのこと、適当に学校の歴史集めて展示形式に誘導するか。どうせクラスの連中もわいわい準備できて当日の荷物置き場が確保できりゃいいんだし」
「あんたは極端すぎるのよ……」
俺の提案にヨシノリはジトっとした視線を向けてくる。
何だよ、そんなに睨んでも可愛いだけだぞ。