疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
出し物が決まってからというもの、クラスの空気がほんの少しだけ変わってきた。
大声で騒ぐやつがいるわけでも、誰かが率先して作業を始めたわけでもない。それでも、漠然と漂っていた何も決まらない空気は消え、少なくとも何をすべきかが見えた分、沈滞していたクラスに小さな推進力が生まれていた。
そんな放課後、俺は教室で部長のケイコ先輩から許可を得て持ち出した漫研の作業用ノートパソコンを使ってクラスの出し物の資料をまとめていた。
エクセルを使い、ネットに転がっていた飲食店のマニュアルのテンプレを元に当日のオペレーションをまとめたり、コスプレ喫茶に必要な資材と予算の洗い出しをしたり。
気がつけば、あれほどくだらないと言っていた文化祭の準備に熱が入っていた。
それもこれも、一周目の上司の教えで得たエクセルスキルのおかげである。
「リリさん、今何してるんだろうなぁ」
二周目の俺を支えてくれた基盤。それをくれた上司へ想いを馳せていると、教室の隅にいたアミの姿が目に入った。
アミはスクールバッグから何かの布地を取り出していた。
「アミ、それ軽音部の衣装か?」
「あ、はいっ! ライブで着る予定のステージ衣装なんですけど……」
驚いたように振り返ったアミが、照れたように衣装を胸元で抱える。
それは、一見すると和服のような生地と構造を持ちながら、スカート部分が洋風のデザインになっている、まさに和洋折衷というべき衣装だった。
帯に見立てたサッシュベルト、肩からひらりと垂れる袖のライン。
ポップだが上品な印象もある、アミの雰囲気に合った可愛らしい衣装だ。
「ライブ用に作ってもらったんですけど……こういうのって、クラスの出し物でも使っていいのかなって、ちょっと不安で……」
「それで、ナイトに確認しに?」
「はい。ルール上は〝予算内で、露出度が高すぎないもの〟ならOKって書いてあったので。ただ自前の衣装ってルール的に大丈夫かなって」
アミが不安げに衣装を抱えたまま、視線をちらちらと廊下の方へ向けている。
ナイトがまだ職員室に呼ばれて戻っていないらしい。
そこで、俺は思い出したように口を開いた。
「文化祭とバンドって、相性いいよな」
「えっ?」
唐突な話題にアミが目を瞬かせる。
「いや、ガールズバンドのアニメや漫画って、文化祭が転機になる展開って多いだろ。ライブで勝負かけて、悩みとか乗り越えて、ラストにドカンと盛り上げて……」
言いながら、自分の中で何かがつながる感覚があった。
漫研で出す予定の部誌。文化祭で売ると決まった時点で、内容はアミをモデルにしたフィクションにする予定だった。
でも、完全に本人を主人公にしてもいいんじゃないか。そんなアイディアが脳裏に過ぎったのだ。
アミの視点で文化祭を舞台にしたバンドストーリーを描く。
劇中の内容は現実の軽音部と完全リンク。
最後に、ステージに向かって駆け上がるところで終わり、続きは文化祭でという形にする。
コミックとステージがシームレスに繋がるような企画だ。
「アミ。もし、その衣装着てステージに立つのが〝物語のクライマックス〟だったとしたら、どんな流れが自然だと思う?」
「えっ、え? 物語って……?」
ぽかんとするアミが、次第に頬を染めて、そわそわと視線を揺らし始める。
そこへ、ちょうどタイミングよくナイトが教室へ戻ってきた。
「あっ、ナイトくん!」
「ごめん、職員室ちょっと混んでて。どうかした?」
「衣装のことなんですけど……これ、自前のでも使っていいですか?」
アミが和風スカート衣装を手に、控えめに差し出す。ナイトは一瞥して、すぐに頷いた。
「露出も多くないし、問題ないよ。自前なら予算関係ないし、実行委員のチェックも形式的なものだから大丈夫」
「よかった……ありがとうございます」
安心したように笑うアミを見ながら、俺は口元をわずかに持ち上げる。
決まりだな。
「アミ。許可は絶対にもぎ取る。作画担当の負担がエグイことになるが、挑戦的な企画大好き人間しかいないしいける」
文化祭という舞台で、アミが主役になる。
「だから〝ギター少女アフロディーテ〟を主人公にした漫画を描かせてくれないか」
現実とフィクションの境界を越える、完全タイアップの物語。
「……もちろんです!」
その始まりの衣装が、今この教室で、彼女の腕の中にあった。