疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第188話 漫研の本格参戦

 漫研の部室には、甘ったるいチョコの香りが漂っていた。

 チョコレートとコーヒーの香り。それがこの部屋の標準装備になったのは、ケイコ先輩が漫画家として完全復活を遂げてからのことだ。

 最近の先輩は、作業の合間にやたらとチョコスナックを口にするようになった。曰く、脳に糖分が足りないと線が歪むらしい。

 一周目で、俺が執筆の合間にタバコを吸うと調子が上がるのと同じようなものだろう。

 

「つまり、アミちゃんを主人公にしたバンドもののストーリーを、文化祭の部誌でやりたいと。しかも、本人が当日ステージに立つっていう、リアル連動付きの企画ってわけね?」

 

 ケイコ先輩が、唇に指を添えながら、にやりとした笑みを浮かべる。その瞳には、もう明らかに〝ノッた〟ときの光が宿っていた。

 

「はい。内容としては、文化祭を舞台にしたガールズバンド漫画です。アミ本人をモデルにして、現実のライブへと繋げるストーリーにします。最終話は、ステージに駆け上がる手前で〝つづく〟にして、当日のライブが完結編になる……そんな構成を考えてます」

「へぇ……最高じゃん。続きは本番のライブで、ってワケね」

 

 ケイコ先輩が頷きながら椅子にもたれ、腕を組む。対面の机に肘をついていたトト先が、フッと鼻で笑った。

 

「カナぴ、その企画。自分の好物ド真ん中」

「トト先……」

「漫画と現実の垣根を取っ払って、リアルにリンクさせる。そんなもん、ゲキアツ以外の何物でもない。実在モデルがいて、文化祭で本人が実際に演奏して、そこまでに至る物語を、こっちが引っ張っていく。あのおっぱいギターちゃんの花道であるレッドカーペットを漫画のページで敷く……クククッ、最高すぎ」

 

 目を細めたトト先の声には、完全にスイッチが入っていた。

 漫画を描いていないときの彼女はいつもはどこかぬぼーっとしていて、けれどひとたび漫画家としてのスイッチが入れば、目の奥が鋭くなるのだ。

 

「原作のネームは任せてください。作画担当の負担は……覚悟してもらうしかないです。おそらく、週刊連載並みのスケジュールになるでしょう。現実に合わせて描写を更新しなきゃいけないから、タイムラグが許されない」

「甘く見ないでくれる?」

 

 ケイコ先輩がペンタブをくるりと回し、机を挟んでこちらに顔を向けた。その口元は満足そうに吊り上がっていた。

 

「最高の漫画が描けるチャンスを逃す理由がある?」

「やらない理由がない」

「「この経験も漫画の糧になる」」

 

 二人はギラリと獰猛な笑みを浮かべた。

 

「バンドの軌跡、メンバーとの絆、そしてライブにすべてを懸ける想い。それが文化祭っていう青春の舞台と合わされば、破壊力は十分」

「ええ、きっと最高のものが出来上がります」

 

 そう言って、俺はパソコンを開き、改めて新しいプロットファイルを作成した。

 タイトルはもちろん〝ギター少女アフロディーテ〟。

 

「……ははっ」

 

 誰ともなく、笑いが漏れる。

 

「じゃあ、漫画〝ギター少女アフロディーテ〟、やりましょうか」

 

「「おおーっ!」」

 

 満場一致。

 文化祭という一日限りの舞台に、二つの物語が走り出した。現実と、紙の上のフィクション。そして、そのどちらもが佐藤愛美麗(さとうアフロディーテ)という一人の少女を中心に回る。

 

 これで、文化祭に向けたもう一つの物語が動き出した。

 

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