疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
スタジオのスピーカーが最後のリバーブを吐き出して、空気がしんと静まった。
「お疲れさまでした……!」
ギターのストラップを外しながら、アミが小さく息を吐く。
額に滲んだ汗を袖で拭い、にこっと笑うその顔は、さっきまでの"ギター少女"とは少し違っていた。
「うぇー、今日も弾いたさー! アフロン、めっちゃ調子よかったねー」
そう言いながらベースを下ろしたのは、喜屋武。
揺れる髪をひょいと結び直しながら、明るい声がスタジオに響く。
「そ、そんなことないです……! 私、テンポ崩しちゃって……」
「いーや、感じてたさー。ちょー気持ちこもってたよ。わん、泣きそうだったわー」
柔らかな声に、アミの顔がかすかに赤くなる。
そんな二人を見て桃太郎がニヤリと笑った。
「泣きそうは言いすぎでしょ。私はちょっと走ったと思うけどな。Bメロ入る前とかズレてたし」
「うー、そういう桃太郎もちょっとドラム急いでたっしょー。んで、わんも釣られて走ったかもー」
「は? 私のせい?」
「冗談さー。冗談冗談」
喜屋武が手をひらひら振ると、桃太郎がスティックを投げるふりをする。
そのやり取りに、アミが小さく笑い、俺もつられて肩をすくめた。
この三人のテンポ感、なんかいいな。
「……カナタ君、見てて変じゃなかったですか?」
アミが、練習中の録画チェックをしていた俺にそう尋ねてくる。
「いや。むしろ三人とも、息が合ってたと思う。文化祭が楽しみなくらいだ」
「ひゃー、カナタンにそう言われると嬉シーサー!」
喜屋武が後ろにのけぞる。その顔は楽しそうだった……あと、その〝嬉シーサー〟は漫画っぽい台詞を意識したのだろうか。
さては、さらに沖縄キャラを定着させにきたな。
「本番のステージ。アフロンの入場、ぶわーって感じにしたいさー」
「えっ、そんな……! 私、目立つの苦手で……」
「でもよ、ギター弾いてるときのアフロン、誰よりも目立ってるさー。それ、ちゃーんと武器にせんと」
その一言に、アミは恥ずかしそうに目を伏せた。
だけど頬が、ほんのり嬉しそうに緩んでいるのがわかる。
「……お前ら、ほんと青春してんなー」
桃太郎があきれたように言って、スティックをくるくる回す。
「悪くないかもね。こういうの」
「そーそー。せっかくの文化祭、最高にカチャーシーな日にしよーね!」
喜屋武が軽くジャンプしながら両手を掲げる。
「……カチャーシーって、何ですか?」
アミがぽそっと尋ねると、桃太郎が先に口を開いた。
「沖縄の踊り。テンション上がったときにやるやつだ」
「桃太郎、まーさん!」
笑い声が交差して、スタジオの中に広がっていく。
「そういや、バンド名を聞いてなかったな」
俺がそう尋ねると、三人の動きが一瞬止まる。目を見合わせたのち、誰からともなくふふっと笑いが漏れた。
「そういえば、言ってませんでしたね……」
アミがギターのネックを見つめながら、少しだけ恥ずかしそうに言葉を続ける。
「〝
「わんが提案したんよー」
喜屋武がニコニコと語る。
「このバンド、名前特徴的な人多いからねー」
「私は最初ちょっとなぁって思ったけど……今は、悪くないと思ってる」
桃太郎も口を挟む。淡々とした口調だけど、口元は柔らかい。
「バケモンって言われるくらいすごいバンドになってやるって気持ちになれるしね」
「いい名前だな。略すとネーモンってとこか」
俺がそう言うと、アミが少しだけ胸を張った。
「このバンドでとことんやってやろうかと思ってます!」
「その意気さー」
喜屋武が背中をぽんっと軽く叩いて、笑いかける。
「やっと自分を好きになれそうなんです。だから、このバンドで私は頑張りたいんです」
アミがぽつりと頷く。
その横顔を、俺は静かに見つめた。
ギターを持つ彼女の手。うっすらと赤くなった指先。弦を押さえたあとがしっかりと残っていて、その一つ一つに努力が刻まれていた。
「じゃあ、取材としても確認しとこう。文化祭でやる曲は?」
「三曲さー。オリジナル一つと、カバー一つ。あとアンコールでもう一曲」
「構成は……」
喜屋武が語り出したところで、アミがそっと小声で耳打ちしてくる。
「あの、セトリはまだ内緒で……」
「ああ、わかったよ」
その秘密が観客にどう届くか、それも楽しみのひとつだ。
「じゃ、そろそろ片づけるさー?」
「そうだね。明日はまた部室が空くから、音出し練習しようか」
桃太郎の言葉に、アミが頷く。
アンプの電源が落ちて、音のないスタジオに戻る。静寂のなか、三人は慣れた手つきで機材を片づけていった。
ギターケースのファスナーが閉まる音。シールドを巻き取る音。ベースの弦を拭く布の擦れる音。
なんというか、青春の音って感じだ。
その横で俺はノートを取り出し、思いついた言葉を殴り書きする。
光るリズム、音の粒、混ざり合う色たち。
それが、彼女たちの奏でる〝青春〟という音楽。
このスタジオの空気ごと、物語に閉じ込めてやる。