疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第191話 軽音部の内情

 片付けも終わり、スタジオの空気が少しだけ冷えていた。

 喜屋武とアミが先に退出し、俺も荷物を手に取ろうとしたとき。

 

「……ちょっと、いい?」

 

 振り向けば、桃太郎がこちらをじっと見ていた。

 いつもより少しだけ声が低い。

 

「……うん、何だ?」

 

 その言い方が、いつもと違うのをなんとなく感じていたから。

 俺は素直に応じて、ドアの前から数歩離れた場所に腰を下ろした。

 桃太郎も、俺の向かいに座る。

 スティックの袋をぽんと足元に置いて、膝を抱えるみたいにして腕を組んだ。

 

「あんたさ、あの二人のこと、どう思ってるの」

「どうって……友達だよ。普通に」

 

 問いの真意を測りかねながらも、俺は率直に答えた。

 頭の中に浮かんでくる二人の顔を思い出す。

 

 アミ。控えめだけど、音楽に向き合うと目が変わる。ギターを持って歌っていると、つい目を奪われる。未来では俺の心を支えてくれた推しでもある。

 

 喜屋武。明るくて、ムードメーカーで。近くにいるとつい笑ってしまう存在。

 

 うん、二人はかけがえのない友人だ。そこに間違いはない。

 桃太郎は納得しきった顔ではなかった。むしろ、俺の返答に対して警戒心を強めたようにも見える。

 

「最近さ、うちの軽音部、バンドの解散がちょいちょい起きてるんだよね。理由、わかる?」

 

 そういえば、視聴覚室にいた軽音部のメンバーは以前に聞いていた話よりも少し減っていた。

 慶明高校の軽音部はそれなりに部員数が多いからバンドも複数存在しているとは聞いていたが、何かあったのだろうか。

 

「音楽性の違い?」

「半分はそう。もう半分は恋愛。色恋沙汰でメンバーの空気が壊れて、結局バンドまで崩れるんだ」

 

 言葉が重たくなる。桃太郎の視線は俺の目をじっと見据えていた。

 

「別に疑ってるわけじゃないけど、あんたが来てから二人がどこか浮ついているように見えてさ」

 

 ……あー、なるほど。そういう心配か。

 

「俺が描く漫画のモデルにするって聞いてそわそわしているんじゃないのか」

「それだけには見えないから聞いてるんだよ」

 

 本当はこんなこと聞きたくない、といううんざりとした表情を浮かべて桃太郎は続ける。

 

「バンドの空気って繊細だからね。誰かの感情が一個でもズレると、音も揃わなくなる」

 

 そう言いながら、桃太郎はスティックを一本くるくると指で回した。

 

「余計なお世話かもだけど、あの二人には変な気まずさが生まれてほしくないから」

「結構考えてるんだな」

 

 俺が見てきた青春バンドアニメは基本バンドメンバーでギスッたりはなかったからなぁ。

 

「ちなみに、色恋沙汰でバンドが崩壊したって具体的にはどんなことがあったんだ」

 

 俺はポケットからメモ帳を取り出して尋ねる。

 

「そうだねぇ、〝Tranquilizer(トランキライザー)〟のボーカルの大葉佳代(おおばかよ)とベースの多田野遊(ただのゆう)が付き合ってたんだけど、〝全壊少年〟のギターの泥田寧子(ひじたねこ)が遊と浮気しててバンド全体巻き込んで大騒ぎになったんだよね。そんな中で〝全壊少年〟のドラムの股尾翔琉(またおかける)が〝ボッキンガム宮殿〟のキーボードやってる一条玉子(いちじょうたまこ)と〝一人ボッチステーション〟の二宮芽々(にのみやめめ)と二股してることも発覚して、もうしっちゃかめっちゃかになっちゃって」

「全壊少年マジで全部壊してるじゃん」

 

 有言実行とは恐れ入った。ロックすぎるだろ。

 というか、高校生時点でそんなに浮気って横行しているものなのだろうか。高校生の恋愛って怖いわぁ……。

 

「私もそれに巻き込まれた口でね。元々、私は〝Tranquilizer〟のドラムをやってたんだ」

「あれ、アミたちのとこにいたドラムは?」

「適当な言い訳でそのままバックレたらしいよ」

「カスぅ……」

 

 軽音部ってそんなのばっかりなのか。

 

「音楽やってる人って、もっと真剣にやってるものだと思ってたよ」

「アフロディーテやメイみたいなのはSSRもいいとこだよ」

 

 喜屋武については詳しく知らないが、アミに関しては未来を知っている俺からすればSSRの中でも期間限定SSRくらいのレア度である。たぶん、人権キャラだ。

 

「ただ青春してる感がほしくて、なんとなく雰囲気でやってる奴はたくさんいるよ。それが悪いって言うつもりもないけどね」

 

 軽音部の実態がわかったのは大きいな。これも小説の糧になる。

 

「クリエイター側としては、不誠実だしどうなんだとは思わないでもないけどな」

「小説界隈だって、そんなもんじゃない?」

「あっ、そんなもんだったわ」

 

 俺の脳裏に自称小説家様代表である文芸部の部長の顔が浮かぶ。まあ、文芸部ごと消えてなくなったんだけど。

 

「さっきから気になってったんだけど……何、メモってんの」

 

 桃太郎が眉をひそめて尋ねてくる。

 

「いや、話が興味深かったからさ。作品の参考にしようと思って」

「真面目に心配してんのに、取材かい!」

 

 若干呆れたように、しかしどこか可笑しそうに笑う桃太郎。

 

「悪い悪い。ちゃんと真剣に聞いてたよ。安心しろ、俺みたいな執筆マシーンがいたところで色恋沙汰にはならないよ」

「それならいいけどさ」

 

 ふっと息を吐いて、桃太郎は椅子の背に軽くもたれながら、天井を見上げる。

 

「アフロディーテもメイも、音楽にすごく真剣だからさ。この空気を壊したくないんだよ」

「……わかった。忠告、ありがとう」

 

 手を軽く挙げて礼を言うと、桃太郎はスティックをポンと肩に乗せてうなずいた。

 

「変な男だけど、変な男じゃなさそうでよかったわ、田中」

「お褒めに預かり光栄」

「いや、褒めてない」

 

 そう言って、桃太郎は少しだけ笑った。

 

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