疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
私の名前は田中愛夏。
ラノベ作家の兄を持つだけの普通の中学二年生だ。
朝食を取り終えて、片づけをしている間にお兄ちゃんがトイレに行ったので由紀ちゃんへ声をかける。
「由紀ちゃん」
「…………はい」
名前を呼んだだけなのに、由紀ちゃんはリビングで正座をしはじめた。
どうやら自覚はあるようだ。
「もうすぐ文化祭なのに、お兄ちゃんとの関係性まるで変ってなくない?」
「それは、ほら、いろいろあったじゃん?」
モジモジしながら目線をそらすその姿は、どこからどう見ても負けヒロインである。本人にその自覚がないのが問題なのだが。
義妹候補の私としては、ここから由紀ちゃんが負けるようなことがあれば発狂するんだけど。
もっとメインヒロインとしての自覚を持ってもらいたいところである。
「こういうのがいるから幼馴染ヒロインが漫画で負けるんだろうなぁ」
「いつにも増して辛辣じゃない!?」
「いやいや、実際そうでしょ。さっきお兄ちゃんにサバサバ姉御肌気取ってアドバイスしてたけど、いつまで拗らせたまんまなの?」
「言葉の刃がキツイって」
彼女の中にはどこか甘えが残っていて、それがまた〝昔のまま〟感を強調している。
そんな調子じゃ、進展するわけがない。自覚のない敗北ルート一直線だ。
事実、アフロディーテさんと喜屋武さんはお兄ちゃんに好意を持っている。特にアフロディーテさんは由紀ちゃんがお兄ちゃんのこと好きなのを知らないから危険だ。
「あたしだって、そりゃ一歩踏み出したいけど、カナタにまるで恋愛感情がないのよ」
そう言った由紀ちゃんの目は、少しだけ寂しそうだった。
確かに、お兄ちゃんは鈍感だ。そう簡単に誰かの好意に気づくタイプじゃない。
「それを理由に止まってるなら、それはもう敗北宣言と同じだよ」
「あ、あたしなりに結構頑張ってるんだよ? 夏休みは結構攻めたと思うし……」
「結果が出るまでやるのが努力だよ」
過程を誇るのは結果を出したあとだ。結果も出さずに過程を誇るのはただの妥協でしかない。
「ホント、愛夏ちゃんてカナタの妹よね。そっくりだわ」
「えっ、全然似てなくない?」
まったく、私をあんな執筆マシーンと一緒にしないでほしい。
「一応、聞きたいんだけど。愛夏ちゃんから見て、カナタってどうやったら人を好きになると思う?」
「うーん」
自覚してないだけであんたにぞっこんだよ。と、言いたいのをぐっと堪える。
それを第三者である私から言うのは違う。
「最近のお兄ちゃんは家族愛や友情がしっかり育まれてる気はするから、やっぱりストレートに好意をぶつけられたら自覚するんじゃない?」
由紀ちゃんはというと、口をへの字に曲げて考え込んでいる。
「ストレートに……ねぇ」
「うん。ストレートに。ちゃんと、言葉で」
「うっ」
図星だろう。顔を赤くしながら視線を泳がせている。
あれだけ一緒にいて、好きって気持ちを一度も言葉にしてないなんて、そりゃ伝わるわけないじゃん。
お兄ちゃんはそういうの、察する機能がごっそり抜け落ちているんだから。
「でもさ……仮に伝えて、気まずくなったらって思うと、さ」
ポツリと漏らしたその声は、小さくて、弱くて。
だからこそ、私ははっきり言った。
「それで何もしないで他の子に取られて後悔するほうが、ずっと気まずいと思うよ」
由紀ちゃんの肩が、ピクリと揺れた。
「よし……じゃあ、ちょっとだけ勇気出してみるかな」
「ちょっとじゃ足りないよ。ドカンと行って、全部ぶつけてきなよ」
「ドカンって……」
そこへ、トイレから戻ったお兄ちゃんがリビングの戸を開けた。
「待たせたな」
「由紀ちゃん。はい、ドカン」
「全然待ってないよ、早くいこ!」
「チッ……不発弾か」
私の反応に、お兄ちゃんは不思議そうに首をかしげていた。
たぶん、自発的に由紀ちゃんと自分の気持ちに気づくのはもう少し先の話だろう。