疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第199話 二度目まして

 十月も半ばを過ぎると、朝の空気が一気に冷たくなった。

 通学路の街路樹は色づき始め、風が吹くたびに黄色い葉がはらりと落ちていく。

 その落ち葉を踏みしめながら、俺は鞄の中の手帳を確認する。ページのあちこちに付箋と赤ペンの書き込みが増え、文化祭本番までのカウントダウンがじわじわと迫っていた。

 

「カナタン、見て見て! メイド服、発注したの届いたさー!」

 

 教室のドアを開けた瞬間、喜屋武が満面の笑みでビニール袋を掲げてきた。中には、ふわふわのフリルがついた黒と白の衣装。

 

「……喜屋武は朝から元気だな」

 

 というか、喜屋武はバンドの衣装だからメイド服は関係ないだろうに。

 

「文化祭は気合い入れんと損さー!」

 

 周囲の数人も「おー、いいじゃん」と近づき、メイド服の裾をつまんでひそひそ話し始めた。

 クラスの出し物はコスプレ喫茶。接客役は全員制服改造の衣装を着る予定で、男子も女装組がちらほらいる。ナイトはそのまとめ役で、今日も黒板の前でチェックリストを片手に動き回っていた。

 

「小物はあとカチューシャとリボンだな……靴下も忘れるなよ!」

「はいはい、分かってるって」

 

 準備は進んでいるようで、細かい抜けはまだまだある。文化祭まで残り二週間、ここからが本当の詰めだ。

 

「カナタ。ちょっといい?」

「どうした、ヨシノリ」

「メニューの内容についてなんだけどさ。クレープってクリーム使えないの?」

「生ものは無理だからな。一応、植物性のホイップとかなら行けたとは思うから確認が必要だな」

 

 ヨシノリは手元のメモにさっと何かを書き込むと、ペンをくるりと回してキャップを閉じた。

 

「そっか、じゃあ後で材料の担当に伝えとくね。他にNGなもののリストってある?」

 

 文化祭の準備は、こうした細かいやり取りの積み重ねだ。大きな方針はもう決まっていても、実際の調整は地味で面倒な作業が多い。だがヨシノリは、こういう抜けを拾うのが上手い。

 その横顔を見ながら、少しでも手間を減らしてやりたいと思っていた矢先だった。

 

「ごめん。カナタ、君? ちょっといい?」

 

 声のする方を見ると、廊下からアミが顔をのぞかせていた。

 

「今か? クラスの準備、まだ途中だけど」

「ちょっと相談があって」

 

 躊躇いがちにアミはそう告げてくる。俺を呼び出せば、クラスの作業から抜けるのはわかっているのだろう。

 クラスの出し物に関しては、仕事の引き継ぎができる。メニュー表の修正も、小物の準備も、誰かに任せれば回る。

 

 だが、ギター少女アフロディーテ関連のことに関しては、替えが利かない。

 優先順位は、決まっていた。

 

「わかった。すぐ行く。悪いな、ヨシノリ。ナイトならわかると思うから細かい部分はそっちに聞いてくれ」

「あ、うん……」

 

 ほんの一瞬、ヨシノリの視線が揺れた。

 ヨシノリには申し訳ないが、俺の身体は一つ。

 全力でやると決めた以上、しっかり優先順位を決めてタスクをこなさなければ、ぐだぐだになってしまうのだ。

 

「悪い、待たせたな」

「ううん、大丈夫」

 

 廊下に出てアミに声をかけると、アミは困ったように笑う。

 何だろう、違和感がある。

 

「とりあえず、時間もないし歩きながらでいいだろ」

「あっ、うん。そうだね」

 

 それから廊下を歩きながら、アミは何度も言葉を飲み込むように唇を動かしていた。

 

「相談ってのはバンド関連か?」

「いや、そのぉ……」

 

 何と言ったらいいかわからないといった様子で、ガシガシと乱暴に頭を掻くアミ。

 その姿は二周目で共に過ごしてきた友人であるアミの姿とは思えなかった。

 

「あー、ごめん。言語化ムズイから直球で言うわ」

「まさか……」

 

 その気怠げな話し方には心当たりがあった。

 

「中身が夏の海でギター弾いてた私になってるって言えばわかる?」

 

 俺の目の前にいたのは友人ではなく、推しだった。

 

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