疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
あと数日で文化祭が始まる。
ありがたいことにナイトがクラスメイトに呼びかけ、業務の割り振りを見直してくれたことで、俺はゆっくりと身体を休めることができた。
ナイトの話では、俺の業務量が異常だったことに気がついたクラスメイトたちから悲鳴が上がったとかなんとか。
とにもかくにも、文化祭開催が近づいたことで準備に勤しむ生徒たちの熱気もより一層強くなっていた。
それはアミたちも例外ではなく、Named Monsterも練習に熱を入れていた。
練習後の片づけを終えたところで、アミが少し躊躇いがちに声をかけてきた。
「……あの、カナタ君。文化祭の一日目、私と一緒に回ってもらえませんか?」
「へあ?」
意外すぎる申し出に思わず声が裏返る。
いや、別に一緒に回るくらいならどうってことはない。
問題は俺はヨシノリと回るつもりで、その意思もヨシノリに伝えてしまっているということだ。
厳密には約束してはいないが、俺たちの間でいえばあれは約束の内に入るだろう。
「ごめん、先約があってな」
「先約ですか?」
「ヨシノリとだ。文化祭は一緒に回ろうって約束してる」
「そ、そうなんですね……」
アミの表情が一瞬だけ曇ったように見えた。だが、すぐに真剣な瞳で俺を見据える。
「でも……未来の私にも見せたいんです。青春への後悔と憧れを私が目一杯楽しむことで晴らしたいんです」
そう言われると弱い。
推しのため、か。やめてくれ、その言葉は俺に効く。
「……うーん」
口ごもった俺の視線の先で、ふと教室の入り口に立つ人影があった。
ヨシノリだ。
彼女は俺とアミのやり取りを見てしまったらしい。
目が合った瞬間、ヨシノリは気まずそうに視線を逸らし、くしゃっと顔を歪めてそのまま駆け出して行った。
「ヨシノリ!? すまん、アミ! この話はまたあとでな!」
俺は反射的に追いかけていた。迷う余地なんて、初めからなかった。
廊下に飛び出すと、ヨシノリの背中が視界に映った。
文化祭準備でごった返す生徒たちの間をすり抜けるように走るその姿を、俺は必死で追う。
エレベーターアクションの再来である。
「ヨシノリ、待てって!」
階段を駆け下り、人気のない中庭に出たところで、ようやく彼女は足を止めた。
肩で荒く息をしている。けれど、俺のほうを振り返ろうとはしない。
「……なんで逃げるんだよ」
「別に、逃げてなんかない」
強がった声。だが震えていた。
俺は数歩近づき、背中越しに声をかける。
「アミには頼まれただけだって。ヨシノリとの約束優先だ」
「……別にあれは約束の内に入らないでしょ。あーちゃんと回りたいなら回ればいいじゃない」
ヨシノリが小さく呟く。その声音は、普段の勝ち気さとは違い、どこか弱々しかった。
「いや、俺は――」
言いかけて、口が止まった。
まただ。二周目が始まってから何度も味わったこの強制的に感情を消される感覚。
俺は何を言おうとしている? 何を言えばいい?
沈黙に痺れを切らしたのか、ヨシノリがようやく振り返った。
頬は赤く、瞳は揺れている。
「あんたがどこの誰と回ろうが、ただの幼馴染のあたしには関係ないもんね」
「そんな、こと」
そうだ。俺たちはただの幼馴染でしかない。
だからこそ、俺から一歩踏み出さなければ。
「由紀ちゃん。聞いてくれ」
「っ!」
それは俺がヨシノリで出会ってすぐの頃。
まだ幼馴染という関係になる前の呼び方。
「俺は由紀ちゃんと文化祭を回りたい。それじゃ、ダメか」
「奏太……」
ヨシノリは涙ぐんだ目で俺を見つめた後、ゆっくりと首を横に振った。
「ううん。ダメじゃないよ」
彼女は少し照れくさそうに微笑むと、俺の袖を小さく引いた。