疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第216話 慶明文化祭開幕

 校内放送が文化祭一日目の始まりを告げる。

 チャイムの音とともに廊下や中庭から歓声が沸き上がった。

 ついに文化祭が開幕したのだ。

 

 クラスのコスプレ喫茶もオープンから大盛況。

 主な客層は在校生だが、校外の客もちらほら見かける。家族や友人連れが多いが、中には受験を控えた中学生グループもいた。

 注文を受けて席へ案内するナイトは、さすがの所作で女子から黄色い歓声を浴びていた。ゴワスは執事服の袖が今にも裂けそうな筋肉で迫力満点。こちらも女子客から「すごーい!」と写真をせがまれている。

 その横では、ヨシノリがトレーを抱えて軽快に歩いていた。

 

「ご注文のオムライスでーす♡」

 

 メイド服に身を包んだ彼女がテーブルに料理を置くだけで、客の男子は一瞬で落ちていた。

 照れ笑いを浮かべるヨシノリに「写真いいですか?」と声をかける客まで出てきて、教室内はますます活気づいていく。

 

 アミと喜屋武も別格だった。

 和洋折衷のバンド衣装は華やかで店の目玉になっていた。

 二人とも笑顔で対応しており、本来の歴史である一周目ではなかったであろう景色がそこにあると思うと、頑張って良かったと心から思えた。

 

「ごめん、カナタ君。ちょっと変なお客さんが来てて……」

 

 感傷に浸っていると、ミイラ女風のコスプレをした女子の竜胆に声をかけられた。

 どうでもいいけど、その格好で文化祭の検閲よくすり抜けたよな。

 

「変な客?」

「死んだ魚みたいな目をしたサラリーマンの人で、田中カナタ先生を指名したいって言ってるの」

「たぶん、編集さんだ。俺が対応するよ」

 

 由弦さんが来たというのなら納得だ。

 あの人は俺の担当編集の前にヨシノリの父親だからな。

 微笑ましい気持ちでテーブルに向かう。

 

「どうもお世話になっています、田中先生」

 

 そこにいたのは由弦さんではなく、漫画の方の担当編集である根本さんだった。

 

「どうして根本さんがここに?」

 

 こういうところには一番来なさそうな人だと思っていたから意外だった。

 

「僕が抱えている作家さんで文化祭の資料が欲しいと言う人がいましてね。田中先生との打ち合わせという名目で会社から出られるし、渡りに船でしてね」

「サボりにうちの文化祭を使わないでくださいよ……」

 

 いや、実際作家さんの資料のために出てきているわけだからサボりではないんだろうけど。

 

「もし良かったらあとで準備から打ち上げまでの写真送りましょうか?」

「助かります。あと、ここって領収書でますか?」

「出ますよ。文化祭のコスプレ喫茶で承認されるかは知りませんが」

 

 相変わらず掴み所のない人だ。

 作家相手に〝こだわりなんてどうでもいい〟なんて言っちゃうくらいドライな人だからなぁ。

 

「そういえば、根本さんっていつも作家に対してあんな感じの態度なんですか?」

 

 気になったので聞いてみることにした。

 

「まさか。あんな態度で普通の作家に接したらみんな

ぶち切れて契約どころじゃないですよ。他の作家さんにはもうちょっとご機嫌取りつつやってますよ」

「じゃあ、なんで俺には?」

「事前の情報と一回目の打ち合わせで田中先生の人となりは把握できましたからね。あなたは歯に衣着せぬ言葉でありのままをお伝えした方が伝わると思ったんですよ」

 

 なるほど。そういう計算の上でのあの態度か。

 ただの天邪鬼じゃなく、最初から俺という作家を見極めた上で、必要な距離感を測っていたというわけだ。

 ……やっぱりプロの編集者はすごい。油断ならないな。

 

「今回はあなたのおかげで最高の結果が得られましたが、最悪原作改変を挟んだ設定でカク太郎先生に描いてもらっても余裕で売り上げは伸びたでしょうね」

「そこ気になってたんですけど、あれやったらネットのファンが怒って炎上に繋がったりしませんか?」

 

「ネットと単行本じゃ客層が違いますからね。騒ぐような自称原作ファンほど金を出さない。それならまだ見ぬ、金を出す新たな客を多く獲得できる方がいい。どうせ燃えたとしても、炎上と呼ぶのもおこがましいボヤで済みますし、済ませます」

「はえー、さすがプロですね」

「あなたもね」

 

 根本さんは楽しげに笑うと、残っていたブラックコーヒーを一気に飲み干した。

 

「それじゃあ、お会計をお願いします。あと、写真の件もよろしくお願いしますね」

「もちろんです。引き続きよろしくお願いします」

 

 根本さんが立ち去ったあと、テーブルに残ったコーヒーカップを見て小さく息をついた。

 こうして文化祭の最中に自分の〝仕事〟を持ち込まれると、二つの世界を行き来している妙な感覚に陥る。

 

「今はこっちの仕事に集中しなきゃな」

 

 そう思い直して執事服の襟を正した。

 よし、仕事に戻ろう。

 

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