疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
根本さんを見送ってからもひっきりなしに客はやってきた。
「カナター!」
メイド服姿のヨシノリがぱたぱたと駆けてくる。
その格好であまりはしゃぐと、いろいろ見えそうでヒヤヒヤする。
「ほら、休憩時間だよ」
「ああ、もうそんな時間か」
シフトに関しては、休憩の時間を各自割り振っており、俺とヨシノリは同じ枠にしてもらった。
正直、ずっと接客に張りついていたら文化祭を味わう余裕なんてない。俺は管理者権限により、一番忙しいお昼時に休憩をもらえるようにしていた。
職権濫用上等である。ちなみに、クラスメイトからは全く文句は出なかった。
「ほら、一緒に回ろ!」
弾む声に思わず笑ってしまう。
カチューシャを外してメイド服の上からジャージを羽織ったヨシノリの姿に、心臓の鼓動が高まる。
何かこのミスマッチな感じでしか得られない栄養ってあるよな……。
「おう。どこから行く?」
「屋台の食べ歩き!」
ヨシノリは子どもみたいに両手を上げて喜んだ。メイド服のフリルがひらひら揺れて、つい目で追ってしまう。
「借りた衣装壊すとまずいからほどほどにな」
今もかなりパツパツだけど。
せっかくなので、衣装もそのままに俺たちは並んで廊下に出る。執事とメイドが仕事サボってるようにしか見えないな、これ……。
「うおっ」
廊下に出た瞬間、甘いポップコーンの匂いと、ソースの焦げる匂いが同時に鼻を刺激する。屋台が並ぶ中庭は既に大混雑で、熱気に包まれていた。
「うわぁ~! すごっ! めっちゃ人いるじゃん!」
ヨシノリが目を輝かせて声をあげる。メイド服姿のまま駆け出す勢いで俺の袖を引っ張った。
「ちょ、お前走んなって。こっちは人混みなんだから」
「だーって見てよ! 焼きそば! たこ焼き! フランクフルト! あっ、クレープもあるじゃん! どれも食べたい!」
「このカロリー暴徒め……」
クラスの仕事から解放されたばかりだというのに、ヨシノリのテンションは上がる一方だった。
人の波をかき分けるように歩きながら、まずは焼きそばの屋台に並ぶ。鉄板の上で麺がジュウジュウと音を立て、ソースの香りが漂ってくる。
「はい、二つね」
渡されたパックを手に、俺とヨシノリは中庭の隅のベンチに腰を下ろした。
「いただきまーす!」
ヨシノリは割り箸を割ると、ずるずると麺をすすった。頬を膨らませてモグモグする姿は、普段見慣れているのに、文化祭の空気が加わるとやけに眩しく見えるから不思議だ。
「うんまっ! 外で食べるとなんでこんな美味しいんだろ」
「雰囲気補正だな。祭りの屋台で食う焼きそばが世界一うまいのと同じ理由だ」
実際のところ味はそこまでだったりする。まあ、俺は味なんてわからないんだけど。
「てか、あとでシフトに戻るときちゃんと歯を磨いておけよ。歯に青のりついてたら客が萎える」
「……わかってるよ」
ヨシノリは慌てて手鏡を取り出し、ティッシュで歯を拭いていた。今じゃねぇよ。
「えっ、もう食い終わったの?」
「うん、量は少なめだったから」
「少なめの定義とは」
俺だったらこれで一食分満足できる量だぞ。
「まあ、カナタの言うとおり量はセーブしておかないとだね。次からはシェアしてこ!」
「それがいい。うん……マジで」
どうやらメイド服のファスナーは無事で済みそうだ。
料理研究部のクレープ屋台につくと、ヨシノリは慣れた様子でクレープを注文する。
「バナナクレープ、クリームマシマシ・バナナ追加・チョコダブルソースマシ・ナッツトッピングで」
「スタバの注文かよ」
「バナナクレープ、クリームマシマシ・バナナ追加・チョコダブルソースマシ・ナッツトッピング一丁!」
「あっ、これスタバじゃなくて次郎系だわ」
クレープ屋台とは思えない野太い声が辺りに響き渡る。
そういえば、料理研究部の部長ってムキムキの甘党って聞いたことあったな……。
それから包み紙でずしりと膨らんだクレープが手渡される。見ただけで胸焼けしそうな迫力だ。
生クリームの山が紙の口から溢れ、チョコソースがとろりと流れ落ちている。軽くスマホアプリで計算してみたが、余裕で八〇〇キロカロリーを超えていた。
もはや兵器だろ、これ。
「じゃあ、あたしから食べるね」
ヨシノリは嬉しそうに目を細め、ぱくりと大口を開ける。
「おわっ!?」
包み紙からはみ出ていた部分が一瞬で消失した。見た目は文化祭の青春的なワンシーンのはずなのに、実際は蛇が獲物を丸呑みする瞬間にしか見えない。
「ん~~! うっま!」
頬をふくらませながら、幸せそうに声を漏らすヨシノリ。口の端にはチョコがついていて、慌てて舌でぺろりと舐め取る。
うーん、可愛い。
「……行儀悪いな」
「いいじゃん、美味しいんだから!」
胸を張って笑うヨシノリは、悪びれる様子もなく次のひと口にかぶりつく。
「いや、俺の分なくなるって」
「じゃあ、どうぞ?」
「いただきます」
もはや残り僅かになったクレープ……の残骸を口に放り込む。
「……うまいな」
「ふふん! でしょー?」
生クリームを頬につけたまま、なぜか勝ち誇った顔をしている。その無邪気さが可笑しくて、つい俺も笑ってしまった。
得意げに笑うヨシノリを見ながら、俺は内心少し落ち着かなくなる。
幼馴染だからこそ当たり前みたいに距離が近い。
こうして改めて文化祭を一緒に回るとなると、どうにも妙にむず痒くなる。
この感覚はなんなのだろうか。
「よし、次はフランクフルト!」
「いや、そんなに食えないだろ」
「平気平気! 文化祭は食い倒れが基本なんだって!」
「誰情報だよ」
結局、フランクフルト屋を指さすヨシノリに付き合わされることになった。
ケチャップを口の端につけながら無邪気に笑う彼女を横目に、俺は半ば呆れ、半ば楽しみながら串をかじったのだった。