疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第218話 その声は……

 一通り屋台を巡った俺とヨシノリは、次の目的地として二年生企画のお化け屋敷へ向かった。

 階段を上がった先の廊下はすでに照明が落とされ、黒いカーテンで区切られている。昼間だというのに、ここだけ夜のような雰囲気だ。

 

「いらっしゃーい」

 

 受付に立っていたのは、ケイコ先輩だった。

 なんというか、うん。

 

「いや、渋谷のハロウィンじゃないんですから」

 

 ケイコ先輩の格好は、白い和服を着て頭に三角の布を着けただけだった。

 

「きゃー! 先輩似合ってます!」

「でしょ? ありがと!」

 

 なんだろう。ワンフロア丸々使用した本格的なお化け屋敷と聞いていたから肩透かしを食らった気分だ。

 

 ……いや、待てよ。

 あのケイコ先輩がそんな生ぬるいことをするだろうか。

 

「二人で挑戦?」

「はいっ!」

 

 ヨシノリが元気よく答え、俺の腕をつかむ。

 ケイコ先輩がにやりと笑ってチケットをちぎった。

 

「じゃあ……せいぜい楽しんでいってね」

 

 幕をくぐった瞬間、空気が変わった。

 暗闇に沈んだ廊下。湿った匂い。スピーカーから流れる低い呻き声。

 

「ひ、ひぇ……なにこれガチじゃん……」

 

 案の定。ガチだった。さては受付で油断させる寸法だな。

 

「おいおい、まだ序盤だぞ」

 

 強がってみたものの、俺も心臓がうるさい。主に腕に感じる感触のせいで。

 最初の角を曲がると、壁に掛けられた人形の首がいきなり落下してきた。

 

「ぎゃあああ!」

 

 ヨシノリが悲鳴を上げて、俺の腕を力いっぱい引っ張る。

 痛い、柔らか……痛いって!

 

「落ち着けって。ただの仕掛けだから」

「だ、だって今の、今のぉ!」

 

 通路を進むごとに、骸骨が飛び出し、血まみれの看護師が呻きながら這い寄ってくる。

 ヨシノリの悲鳴を上げるために、俺の腕も悲鳴を上げる。

 あの、商売道具なんでもう少し優しく扱ってもらえませんかね?

 

 そのまま通路を道なりに進み、突き当りのところに草むらが現れる。

 そこにいたのは、本格的なトラのメイクをして、口元を血糊で真っ赤に染めた男子生徒が立っていた。

 

「その声は、我が友、李徴子ではないか?」

「山月記やめろ。てか、李徴はあんただろうが」

「ああ、田中君か……」

 

 よりにもよって、人喰いトラ(李徴)を演じていたのは廃部になった文芸部に所属していた原先輩だった。

 どうやら停学は空けたようだ。

 

「……原先輩に李徴やらせるの、なかなか容赦ないですね」

「……ショージーもこれで手打ちにしてくれるって言ってるから優しいよ」

 

 優しいか? まあ、現在進行形で破壊されている原先輩の尊厳を無視すれば、優しいか。

 俺としては、一周目での小説の師匠でもあるし、コミケの件があっても原先輩を邪険にはできない。

 

「原先輩。また小説書いてくださいよ。文芸部なんてなくても文章はいくらでも書けるでしょ」

「ははっ、ショージーにも同じことを言われたよ……」

 

 どちらにせよ、もう終わったことだ。

 今はただ、この人が前を向いてくれることを願うだけだ。

 

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