疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
予想外の再会を経て、そのまま道なりに進んでいくと、やがて不意に空間が開けた。
赤いカーテンに囲まれた小部屋。そこには祈祷師のような格好をした男子生徒が座っていた。
「ようこそ……ここは破滅の未来を回避するための未来を示す祠」
青白いライトが顔を照らし、不気味さが段違いだ。
「え、何ここ? お化け屋敷でこんなのあるんだ」
落ち着きを取り戻したヨシノリがきょろきょろする。
「まあ、アトラクションのコンセプトには合ってるよな」
ホラーゲームで言えば、脱出のヒントをくれるNPCのポジションといったところだろうか。
「そこの女子。貴様は今、人間関係で悩んでいるな?」
「すごい! 何でわかったの!?」
「……そりゃ誰にでも当てはまりそうな内容だからだろ」
所謂バーナム効果というやつだ。
誰にでも当てはまるような曖昧で抽象的な特性について述べれば、自分のことについて言い表していると信じてしまう心理効果のことである。
単純なヨシノリは瞳を輝かせたまま祈祷師をじっと見つめる。
どうやら素直に受け取ってしまっているようだ。
まあ、占いなんかは基本的にこの心理効果を利用しているわけで、別に騙しているわけではない。
変に捻くれて捉えるより、背中を押してくれる一言として受け取っておく方がいいだろう。
「そこの男子は、この世界における異分子と言ったところか」
「っ!」
心当たりしかない言葉に一瞬ドキッとするが、ただの中二病向けの言葉と思い留まる。
「精神と肉体の乖離、さしずめ子供の中に大人が入っているようなものか」
「……ああ、そういや二年生の企画を主導してたのはケイコ先輩だったか」
俺に対してピンポイント過ぎて、さすがに気づく。
そりゃ俺の特徴くらい聞いててもおかしくないか。焦ったぞ、マジで。
「そう思うのも自由だ。別にこれはただの占いなのだからな」
不気味に笑うと、祈祷師は水晶玉の上でエアろくろを始めた。
祈祷師が水晶玉使うなよ、雑だなぁ……。
まずヨシノリの前に差し出された水晶玉の中が光り輝く。どうやらエフェクトだけは無駄に凝っているようだ。
「佐藤由紀。お主の未来は今年で大きく変わる。大きな決断をするときが今年中に必ずやってくる」
「こ、今年ですか……」
チラチラと俺の方を向きながらヨシノリは祈祷師の言葉を真剣に聞いていた。
何故、俺を見る。
「周囲を気にせず、自分自身の意志を貫け。さすれば、道は開かれん」
「わかりました! あたし、頑張ります!」
拳を握って宣言するヨシノリに、祈祷師はうむと頷いた。
それから今度は俺の番が回ってきた。
水晶玉の中に赤黒い光がぽつりと灯っては消える。
何で俺だけちょっとエフェクトが不穏なんだよ。
「お前は大切なものを失っている」
命かな?
「その代償はお前にとっては大きなものだろう。少なくとも、お前が望むものを手に入れるには、世界の観測者がその任を終える必要がある」
「はぁ、そうですか」
内容が抽象的すぎていまいちピンとこない。やっぱり、事前情報があっても俺は二周目っていう特殊な事情があるから仕方がないのだろう。
「この世界は虚から生まれた真。お前は選ばれた者でありながら、囚われの身だ」
「ねぇ、何かカナタだけやけに長くない」
俺の横でヨシノリが不満げにむすっと頬を膨らませている。
そりゃ内容にここまで差があれば不満も出るだろう。
「ヨシノリと違って、未来が芳しくないからじゃないか?」
「確かに内容はよくわかんないけど、不穏だもんね……」
すっかり占いを信じ切っているヨシノリはごくりと唾を飲み込んだ。
「呪縛を解き放つそのときまで足掻くことをやめるなよ――北大路魚瀧」
最後の一言で背筋が凍りついた。
「な、んで……」
それは一周目という存在で、俺を知らなければ知り得ることができない二周目では生まれなかった俺のペンネームだ。
「きたおうじ、何? カナタ、どういうこと?」
「い、いや、何でもない。何でもないんだ」
横で首を傾げているヨシノリにそう言って深呼吸をする。
「……もしかして、あんたも二周目なのか」
「さて、二周目が何を指すかは知らないな」
再び不気味に笑うと、祈禱師は続ける。
「呪縛を解くことは叶わんが、中学生のときを振り返れば薄まることもあるかもしれんな」
「中学、か……」
まるで俺の記憶にない人生において空虚な時期だ。それが鍵になる?
少なくとも、こいつの言っていることは聞いておいた方がいいだろう。
俺には、彼の言葉が冗談には聞こえなかった。
「では、よい旅を……」
にこやかに俺たちは祈禱師に送り出された。
再び通路に戻ると、絶叫とともにラストのゾンビ役が飛び出してきた。
「グオオオオオオオ!」
「いやああああああ!」
ヨシノリが悲鳴をあげながら出口を駆け抜ける。
廊下の明かりが目に眩しい。
「はーっ! 楽しかったぁ!」
ヨシノリは汗だくで笑っている。
俺はというと、さっきの占いが頭から離れなかった。
「あの、ケイコ先輩」
受付に戻って尋ねる。
「お化け屋敷の途中で占いってありましたよね?」
「占い? 何それ。そんなブースは作ってないけど」
ケイコ先輩は首をかしげた。
血の気が引く。
「え? あったよね?」
ヨシノリは笑っているが、俺には笑えなかった。
本気で、ぞっとした。ガチのホラーは勘弁してくれ……。