疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
俺の衣装はナイトと同じ執事服だった。
ナイトの完璧でプロポーションの執事服姿と違って、こっちは何とか形にした急ごしらえのハリボテのようなものだ。
あっちが二次元から飛び出した完璧イケメンなら、こっちは学園祭の余興で着せられたコスプレの域を出ない。
舞台袖から一歩踏み出した瞬間。
客席から、一瞬だけざわめきが止まった。
「えっ、あれ田中君?」
「普段と全然雰囲気違う……!」
「あー、いけません。これはいけません……!」
驚き混じりの声があちこちで上がる。
ライトの熱が頬を焼く。
大勢の視線が自分ひとりに注がれるこの状況に、思わず喉が渇いた。
けれど、ここで逃げるわけにはいかない。俺は深呼吸をひとつして、会場に向かって一礼した。
『一年B組の田中奏太です』
それから顔をあげ、笑顔を浮かべ――ようとしたが、口元が引き攣る感覚からしてうまくできなかった。
ふと、客席のヨシノリが目に入る。
「~~~っ!?」
なんかすごい顔でジタバタしてるんだけど……。
なんならアミや喜屋武も似たような状態になっている。何なんだ、マジで。俺はただ立ってるだけだぞ。
『はい、それでは田中君! 自己アピールタイムです。どんなパフォーマンスを?』
司会である岡先輩の声がマイクを通じて体育館に響き渡る。観客のざわめきが少し落ち着き、再びスポットライトが俺に集まる。
『えっと、特に一芸もないので、宣伝だけさせてください』
正直、歌やダンスなんてできるわけがない。ネタ枠としての役目は登場した時点で果たせているだろう。なら、こちらもこの場を良いように利用させてもらうとする。
『俺は普段、小説を書いていて……田中カナタというペンネームで、ラノベを出しています。えー、それと漫画の原作もやってます』
その言葉を口にした瞬間、会場の空気が大きく揺れた。
「えっ、作家?」
「ほんとに!? B組の田中君だよね?」
「嘘だろ、プロなのか?」
客席が一気に騒がしくなる。驚きとざわめきが波のように広がっていく。
『まさかのプロ作家!? これはすごい情報が飛び出しました!』
知っている癖に白々しく驚く岡先輩の煽りがさらに拍車をかけ、体育館全体がどよめきに包まれた。
『あと、今回の文化祭では漫研の部誌に短編漫画の原作を担当させてもらいました。〝ギター少女アフロディーテ〟っていう漫画で、このあとミスコンで出る同じクラスの佐藤を主人公として描いた漫画です。もしよければ、ぜひ手に取ってみてください』
俺はできるだけ落ち着いて告げた。けれど、耳の奥がじんじんするくらい、観客の反応は熱かった。
「プロなのに、部誌!?」
「読んでみたい!」
「なんかクールで格好いい……」
「てか田中君、普通にイケメンじゃん……」
思っていた以上に反応は良かった。むしろ俺の方が戸惑っているくらいだ。
大してイケメンでもない俺が、こんなふうに注目されるなんて想像もしなかった。
『ありがとうございました! 意外すぎる一面を見せてくれましたね、田中君!』
岡先輩の締めに続いて、拍手が広がっていく。手のひら同士がぶつかる乾いた音が体育館いっぱいに響き渡り、俺の胸を震わせた。
俺は再び一礼し、舞台袖へと下がった。
ライトが外れた瞬間、全身の力が抜けて、思わず壁にもたれる。
こういうのは場違いだと思ってたが、意外と悪くなかったかもしれない。
また一つ、小説の糧になった。