疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
体育館の舞台袖。
ライトに照らされたステージからはまだ歓声が響いていた。ミスターコンテストが終わり、次はいよいよミスコンの番。出場者の女子たちが慌ただしく準備をしている。
私はギターのチューニングをしながら、隣に立つ由紀ちゃんに声をかけた。
「あの、由紀ちゃん」
「ん?」
振り返った彼女は、いつもより呆けた顔をしていた。
おそらく、さっきのミスターコンテストのカナタ君の執事姿の悪役じみた笑顔に脳を焼かれてしまったのだろう。わかります、あれは反則ですよね……。
由紀ちゃんや私だけじゃない。それなりの女子にあの悪い笑みはぶっ刺さったことだろう。もうめった刺しである。体育館が猟奇的殺人現場に早変わりだ。
「もし、私が由紀ちゃんにこのミスコンで勝ったら――二日目はカナタ君と一緒に文化祭を回ることをお願いする権利が欲しいんです」
一瞬、由紀ちゃんの肩がぴくりと揺れた。
「……それってさ、直接カナタに頼めばいいじゃん。別にあたしに言うようなことじゃないでしょ?」
軽く笑って誤魔化そうとする。けれど、私は首を横に振った。
「違うんです。私は由紀ちゃんに勝った上で、カナタ君にお願いをしたいんです」
言葉を選ぶ間もなく、胸の奥から湧き出る気持ちが口をついて出た。
「……私はカナタ君のことが好きですから」
私はカナタ君が好きだ。
阿比留さんたちとの関係を気にして見守っていてくれた。
いじめられそうになったら助けてくれた。
私の名前を笑わずに、理解してくれた。
キャンちゃんと和解する機会をくれた。
そして、今もまだ私を助けてくれている。
わかっている。私に気持ちを向けてくれる可能性は限りなく低い。
それでも、挑まない理由にはならない。
だって、結果が出るまでするのが努力だから。
朝、眠そうな顔で登校するカナタ君が好きだ。
カラオケに行くと意外とうまいのに、納得がいかずに唸っているカナタ君が好きだ。
私の歌を聞いているとき、子供のように目を輝かせてくれるカナタ君が好きだ。
意外とえっちで定期的に胸に視線が吸い寄せられて慌てて視線を逸らすカナタ君が好きだ。
小説にとことんのめり込んで、どこまで努力できるカナタ君が好きだ。
私の夢と名前を笑わないカナタ君が好きだ。
彼のことが、どうしようもなく好きなのだ。
由紀ちゃんの目が大きく見開かれる。舞台袖のざわめきも、ライトの熱気も、全部遠くに感じた。
「だから、これで断られたら諦めます。私の気持ちに区切りをつけたいんです」
由紀ちゃんは視線を逸らし、拳をぎゅっと握った。
「……あーちゃん、本気で言ってんの?」
「本気です」
しばらく沈黙が落ちた。ステージからの歓声が遠くに響く。
やがて、由紀ちゃんは小さく息を吐いて私を見据えた。
「わかったよ。そこまで言われて引くわけにいかないし。勝負、受けて立つ」
「まったく、あいつも隅におけないわねぇ。こんなに可愛い子に惚れられちゃってさ」
強気な笑みを浮かべた由紀ちゃんだったけれど、どこか苦しげな影が差しているようにも見える。
私は勇気を振り絞り、さらに踏み込む。
「由紀ちゃんはどうなんですか?」
「え?」
「カナタ君のこと。由紀ちゃんは、どう思ってるんですか?」
問い詰めるように見つめると、由紀ちゃんの表情が固まった。
すぐに答えが返ってくると思った。
「それ、は……」
かすれた声でそう言ったきり、彼女は言葉を飲み込んだ。
そのとき、マイクの音が体育館に響き渡った。
『それではお待たせしました! 続きまして、ミスコンテストの開幕です! 出場者の皆さんは準備をお願いします!』
舞台袖が一気に慌ただしくなる。
「由紀ちゃん、いってきます」
俯く由紀ちゃんへ声をかけ、私は勝負の場へと足を踏み出した。