疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
アミの演奏が終わり、体育館はまだ余韻に包まれていた。
その後も二年や三年の先輩が順に登場する。
モデル系の美人先輩や、サッカー部のマネージャーがユニフォーム姿で出てきたりと、華やかさは十分なはずなのに、どうにも印象に残らない。
理由は明白だった。
「アフロディーテが強すぎたんだよな……」
客席のあちこちからも同じような声が聞こえてくる。
トップバッターとしてのインパクトを、アミは完全に掴み取っていたのだ。
そして数人を挟んだあと、意外な人物の名前が呼ばれた。
『続いては――二年C組、伊藤都々さん!』
トト先である。
舞台袖から姿を現した彼女は、普段のボサボサ髪とクマの浮かんだ顔とは打って変わり、しっかりとメイクが施されていた。
ピンクのリップに、クマを消して目元を引き立てるアイライン。
衣装は清楚なワンピースだが、メイクの効果で彼女の雰囲気はまるで別人だった。
お化け屋敷で見ないと思ったら、このために控えてたのか。
絶対ケイコ先輩の仕込みだろ。
「え、誰……?」
「伊藤さん? ……伊藤さん!?」
「めっちゃ可愛くなってる!」
「伊藤ってあのボサボサ髪の陰キャだよな?」
「うっそだろ、あんな可愛いかったのかよ!」
「接し方ミスったぁ!」
客席からざわめきが広がる。
トト先は緊張に足をすくませながらも、ステージ中央に立ち、マイクを両手でぎゅっと握った。
「は、はじめまして……二年C組の、伊藤都々です……」
声が震えている。だがそのぎこちなさがかえって観客に伝わり、どこか応援したくなる空気が流れる。
『えっ、都々ちゃんだよね――こほん、すごく雰囲気変わりましたね! 今日はどんなアピールをしてくれるんでしょうか?』
どうやら岡先輩はトト先のことを知っていたようで、その変身っぷりに目を丸くしていた。
「えっと……あの……」
トト先は狼狽えながらも小さく息を吸い込んでから答える。
「さっき後輩のおっぱ――えっと、佐藤愛美麗さんがギターを披露して……すごく素敵で、それを男コン……じゃなかった、ミスターコンテストのカナぴ……田中奏太君と組んで彼女を主人公にした漫画を描いてて……」
おい、今おっぱいギターちゃんって言いそうになったろ。
しかし、ここまでガチガチに緊張したトト先を見るのは初めてである。
普段はマイペースで飄々としている彼女だが、大勢の人に注目されながら話すのは苦手のようだ。
「だから……少し宣伝をさせてください」
トト先は震える手で一冊の小冊子を取り出し、頭上に掲げた。
「スゥー……漫研で部誌を作りました! タイトルは〝ギター少女アフロディーテ〟です! さっきのアフロディーテちゃんが主人公で、内容は彼女が文化祭でステージに上がるまでの物語です!」
体育館がどよめいた。
アミの演奏の余韻が残る中、その名前を冠した作品の宣伝。
タイミングとしては完璧すぎた。
『おぉ~! これはすごい繋がりが出てきましたね! 名前のインパクトに演奏、そして作品化まで!』
司会も煽りを入れる。
トト先は照れ笑いしながら深々とお辞儀をした。
「かわいい!」
「頑張れー!」
その姿に客席から応援の声が飛ぶ。
彼女が退場していく背中を見送りながら、俺は胸の奥が少し熱くなるのを感じた。
ああ、これで完全に〝ギター少女アフロディーテ〟は文化祭の目玉の一つになった。
なあ、多田野。知っているか?
戦う前から勝負は始まっていたんだぞ。