疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第230話 まるで本物のメイド

 ミスコンも恙なく進行し、ついに最後の出場者の出番がやってくる。

 

『最後の出場者は一年B組、佐藤由紀さん!』

 

 司会である岡先輩の声が体育館に響き渡る。

 その瞬間、舞台袖から姿を現したのは、コスプレ喫茶で着ていたメイド服に身を包んだヨシノリだった。

 

 いつものポニーテールと違って長い髪をゆるやかに波打たせ、肩口から腰にかけて流れるロングのヘアスタイル。

 レースのカチューシャがそこに添えられ、光を浴びた瞬間、ヨシノリは本物のメイドに見えた。

 体育館の空気が一拍止まり、それから爆発したように歓声が湧き上がる。

 

「由紀! 可愛いよー!」

「なにあれ! 完成度えぐっ!」

「コスプレ喫茶いけなかったから見れて良かったぁ……!」

 

 スカートの裾を軽くつまみ、優雅に一礼する。ほんの小さな仕草に、観客の心が一瞬で掴まれていくのがわかる。

 待て、俺は聞いてないぞ。ミスコン出るなんて一言も言ってなかったじゃないか。

 動揺で心臓が変な跳ね方をして、思わず口が開きっぱなしになる。

 

「ご主人様、お嬢様。はじめまして……なんちゃって! 佐藤愛美麗に続いて、佐藤その2こと、佐藤由紀です!」

 

 マイクを通したその声が、体育館に柔らかく響いた。

 それだけで悲鳴のような歓声がまた沸き上がる。

 

「佐藤ってあんな可愛いかったっけ!?」

「てか、えっろ……!」

「いつもの運動部女子感ないな」

 

 そこにいたのは、完璧に仕上がったメイド姿の美少女だった。

 

『すごい完成度ですね! 由紀さん、衣装もポーズもばっちり決まってます!』

 

 岡先輩が声を弾ませると、ヨシノリは照れたように笑う。

 

「あはは……ありがとうございます。今日はみんなに楽しんでもらいたくて、思い切って出てみました!」

 

 マイクを持つ手はほんの少し震えていた。けれど、彼女はそれを隠すようににこりと笑う。

 

「せっかくの文化祭だし……ぜひ最後まで思いっきり楽しんでいってくださいね!」

 

 その一言で、体育館は再び割れんばかりの声援に包まれる。

 

『では、さっそくアピールタイムに入りましょう!』

「こほん……えー、ご来場のご主人様、お嬢様、本日は私めのためにお時間をいただき誠にありがとうございます」

 

 観客に向かって、丁寧に一礼。次の瞬間、ほんのわずかに視線を動かして――彼女の瞳が、俺を捉えた。

 舞台袖でも客席でもなく、ただ一点。俺だけを見据えて。

 心臓が一瞬で跳ね上がった。

 ヨシノリはほんの一瞬だけ、悪戯っぽく片目を閉じる。

 

「……っ!」

 

 周囲が歓声で揺れているのに、俺だけ別の世界に放り込まれたみたいで。呼吸が詰まる。

 

「本来ならばお茶の一つでもご用意したかったのですが、こちらの体育館は飲食が禁止となっておりますので、エア紅茶でご容赦くださいませ」

 

 いつもとは違う、柔らかい声音でそんなことを告げるヨシノリ。

 その所作に今度は違う意味で、呼吸が詰まる。

 先ほどまで騒いでいた観客も静かになっていた。

 

 まるで本物のメイドが紅茶を注いでいる。ないはずのティーセットがそこに見えた気がしたからだ。

 コミケのときも思ったが、ヨシノリってキャラを自分に落とし込む才能があるんじゃないだろうか。

 

『ありがとうございました! 会場全体が魅了されてしまいましたね! いやぁ……まるで本当に紅茶を入れてもらっているかのような完成度でした!』

 

 気がつくと、ヨシノリのアピールタイムは終わっていた。岡先輩の言葉を合図に、客席から拍手と歓声がさらに大きく膨らんでいく。

 ヨシノリは深々と頭を下げ、裾をひらりと揺らして退場していった。

 

 その後ろ姿を見送りながら、俺はただ呆然とすることしかできなかった。

 ヨシノリが、こんなふうにステージで輝く姿を俺は想像したことすらない。

 

 どうにも胸の奥が妙に熱くて、落ち着かなかった。

 

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