疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
校門を抜けると、ふっと肩の力が抜けた。
昼間あれほど賑やかだった校舎の外は、もうすっかり夜の気配に包まれている。
オレンジ色の外灯が並ぶ道を、俺とヨシノリは肩を並べて歩いた。
昼間の熱気が嘘みたいに静かだ。
焼きそばやフランクフルトの匂いも消え、代わりに漂うのは紙と油の混ざった祭りのあと独特の匂い。
通りには大きなごみ袋がいくつも積まれ、まだ後片づけをしている上級生たちの声が遠くに響いている。
夜風が冷たくて、ブレザーを着ていないと心許ない。
俺は腕をさすりながら、自然と口を開いていた。
「なぁ、今日のコンテスト……」
ヨシノリが、すぐに反応する。
「カナタ、すっごい顔してたよ。『なんで俺が?』って思ってたでしょ」
「……そりゃそうだろ」
俺が苦笑すると、ヨシノリはからかうように笑った。
「でも、ちゃんとかっこよかったよ。あたしもちょっとドキッとしたし」
「……そりゃよかった」
「あははっ!」
ぶっきらぼうに返すと、ヨシノリは嬉しそうに笑う。
街灯に照らされて笑う横顔は、いつも以上に無防備で、どこか子どもみたいだった。
しばらく、二人して黙って歩いた。
アスファルトの上を並んで歩く足音だけが響く。
その沈黙は居心地が悪いわけじゃなかった。
むしろ、祭りのあとの静けさが心地よくて、互いに余韻をかみしめているようだった。
やがて、不意にヨシノリが口を開いた。
「ねぇ、カナタ」
「ん?」
「明日は、あーちゃんと回ってあげて」
思いがけない言葉に、俺は足を止めてしまった。
ヨシノリは一歩進んだところで立ち止まり、振り返る。
「……どういう意味だ?」
ヨシノリは肩をすくめ、少し困ったように笑った。
「たぶん、あーちゃんからは言い出さないと思うから、さ。あの子試合に勝ったのに、勝負に負けたみたいな顔してたし」
夜風に揺れる髪。
いつものきっちり結んだポニーテールではなく、今日はゆるく下ろしたロングヘアのまま。
月明かりを受けて、その輪郭が淡く浮かび上がる。
それだけで、普段のヨシノリとは別人のように見えた。
「ヨシノリ……」
名前を呼ぶと、ヨシノリは小さく笑って首を振った。
「別に深い意味じゃないよ。ただ、あの子ずっと頑張ってたから。少しくらい報われてもいいでしょ」
軽い調子で言ったつもりなんだろう。
けれど、その瞳はまっすぐで、逃げ場がなかった。
普段は冗談ばかりの幼馴染なのに、このときだけは妙に大人びて見えて、俺は言葉を失った。
胸の奥がざわつく。
それが気まずさなのか、後ろめたさなのか、自分でも判別できない。
ただ一つ確かなのは、ヨシノリがアミのことを想ってこの提案をしているということだ。
「…………」
言いたいことはたくさんあるはずなのに、喉に引っかかって出てこない。
結局、俺は何も返せなかった。
ヨシノリはそれ以上追及せず、くるりと前を向いて歩き出す。
その背中を追いながら、俺も歩き出す。
夜の道は静かで、二人の影が並んで伸びていた。
その影が交わることも、離れることもなく、ただ淡々と前に続いている。
文化祭の一日目は、こうして幕を閉じた。
胸の奥のざわめきは、冷たい夜風よりもずっと強く、俺の足取りを重くしていた。