疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
文化祭二日目の朝。
校舎に入った瞬間、昨日の喧騒の名残が肌にまとわりついてきた。
廊下を行き交う生徒たちの足取りは軽く、どこも笑い声とざわめきに満ちている。
一日目と違って慌ただしさはなく、今日はもう形ができているものを回すだけの余裕が漂っていた。
一年B組の教室に入ると、すでに数人が準備を始めていた。
テーブルクロスを直したり、衣装に着替えて鏡を覗き込んだり。
漂ってくるのは紅茶と香ばしい匂い。まるで本物の喫茶店の仕込みのようだった。
「おはよー、田中君」
竜胆が今日もミイラ女のコスプレで挨拶してくる。
その姿を見るたび、ふと思う。
何でミイラ女って露出は控えめなのに、あんなにエロいのかと。
「おう。おはよう」
浮かんだ疑問はさておき、軽く返して席に鞄を置く。
今日のシフト表に目をやると、そこにアミと喜屋武の名前はない。
軽音部のライブの準備で、二人は朝からそっちにかかりきりだからだ。
昨日あれだけクラスのために働いてくれたのに、今日も自分たちの舞台のために全力なんだ。
少し寂しいけれど、昨日のアミのミスコンでの姿を思い出せば、今日もきっとステージで誰よりも輝くだろう。
「おはよう、カナタ」
背後から穏やかな声がして振り返ると、ナイトがいた。
執事服に身を包み、昨日に引き続き優雅な立ち姿。まるで舞台のワンシーンを切り取ったかのようだ。
「おはようさん。もう完璧に仕上がってるな」
「せっかくだし優秀賞はもらいたいからね。朝から全力で臨むつもりさ」
さらりとそう言って微笑む。
「ま、ライバルは手ごわいけどな」
二年生合同のお化け屋敷のクオリティも大概だからな。
「それにしても、昨日のミスターコンはすごかったな。トップバッターであんな歓声もらえるのは、お前ぐらいだろ」
「ありがとう。でも、カナタだってすごかったよ。実際、優勝したんだし」
「俺のはギャップと作家補正だから」
「それだって魅力の内さ。結果が物語っているだろう?」
ナイトの視線は真っ直ぐで、こちらが少し居心地悪くなる。
「……自分でも意外だったよ。まさか優勝するなんてな」
俺は少し言葉を探しながら昨日の客席の反応を思い出した。
「でも、今は納得もしている。結局さ、実績がある人っていうだけで補正がかかるんだ。普段の俺を知ってるやつにとってはギャップもあるし、プロ作家っていう情報は単純に目を引くだろ」
「なるほど。カナタらしい分析だね」
「職業病みたいなもんだよ。キャラを考えるとき、人間関係に説得力をどう持たせるかっていう視点」
「なるほどね」
肩をすくめると、ナイトは柔らかく笑った。
「文化祭って〝普段見えない顔〟が見れる場でもあるから。昨日のカナタは、そういう意味でとても輝いていた」
「……お前、本当にそういうことを真顔で言うな」
「事実だからね」
軽やかに言い切られると、こっちは返す言葉がなくなる。
「ところで、今日はどう動くつもり?」
「午前中は喫茶の当番やって、昼からは……アミと回る予定」
言ってから、自分でも少し驚いた。昨日の帰り道、ヨシノリに言われてようやく覚悟を決めたことを、こうして口にする日が来るとは。
ナイトは少しだけ目を細めて頷いた。
「そうなんだ……由紀ちゃんとは話し合った結果かい」
「何でわかるんだよ」
「だって、僕だよ?」
「ははっ、お前も言う様になったな」
ナイトも出会ったときに比べて明るくなった。作られた明るさではなく、素の明るさ。それを親友が出してくれるようになったことを嬉しく思う。
「どこかの誰かさんたちのおかげでね」
ナイトはそう言って、教室の中で動き回るクラスメイトたちに視線を向けた。
「今日は昨日より忙しくなるだろうね。アミちゃんと喜屋武さんが抜けた分、みんなで支え合わないと」
「そうだな」
「でも、カナタは何も気にしなくていいさ。今日までの頑張りは、それだけの価値があるんだから」
柔らかくも確かな言葉に、俺は苦笑して肩をすくめた。
そんなやり取りをしているうちに、教室のざわめきは一層増していった。
やがてチャイムが鳴り響く。
二日目の文化祭が、こうして幕を開けたのだった。