疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第237話 ライブの舞台裏

 文化祭の屋外ステージは昼前から熱気を帯びていた。

 グラウンドの特設ステージは、例年軽音部やダンス部の発表のために設置されるもので、今日のメインイベントといっても過言ではない。

 快晴の空に白い雲がぽっかり浮かび、真昼の陽光が校舎の壁を照らしている。風は爽やかで、吹き抜けるたびに屋台の匂いと人いきれが混ざって流れてきた。

 

 一周目の経験から、この時間に雨が降らないことはわかっていた。

 そのことを知っているだけでも、俺の胸には奇妙な安堵があった。もし天候が崩れていたら、この場は完全に台無しになっていただろうから。

 観客席はすでに人で埋まりつつあり、立ち見の輪が広がっている。

 

 軽音部の名前は校内でもそれなりに知られているし、昨日のミスコンでアミが強烈なインパクトを残したこともある。今日のステージは嫌でも注目を浴びるだろう。

 ステージ裏に顔を出すと、そこにはいつになく落ち着かない様子の桃太郎がいた。

 緊張が隠せず、握ったスティックを何度も持ち直しては手のひらを拭っていた。

 

「よお、桃太郎。どうしたんだよ。顔、真っ青だぞ」

 

 声をかけると、桃はびくっと肩を揺らした。

 

「べ、別に……ただちょっと、緊張してるだけ」

 

 強がるように答えるが、声がかすれている。

 手元を見れば、スティックを持つ指先がほんのり震えていた。

 その横で機材を調整していたアミが心配そうに振り返る。

 

「桃太郎ちゃん、大丈夫ですか?」

「大丈夫。だと思う……」

 

 小さく笑おうとするが、引きつった笑みになってしまう。

 俺は腕を組んで桃太郎の正面に立った。

 

「不安になる理由なんてどこにあるんだ」

「……だって、あっちのメンバーが、さ」

 

 桃太郎が視線で示す先には、別の控え場所にいる多田野のバンドメンバーたちがいた。

 ギターの女子は、手首の柔らかいスナップで速弾きをさらりとこなし、指板を滑らせる動きに一切の無駄がない。

 小太り気味のドラム男子は、その表情が自信に満ち溢れている。

 ベースを抱えた多田野は言うまでもない。彼が本気で練習を積んできたことは、見ればすぐにわかる。

 

「全員一年じゃ群を抜いてる。……アフロディーテがいても敵わないって思っちゃうよ」

 

 桃太郎はうつむき、唇をかんだ。

 長身の彼女がこんなふうに小さく見えるのは、珍しいことだった。

 俺は肩をすくめて、あえて軽い調子で言った。

 

「はぁ? 何言ってんだよ」

「……え?」

「確かに向こうは上手いかもしれない。ギターもドラムもな。多田野だって、音楽に本気なのはわかる。でも、お前らが負ける要素なんて、一つもない」

 

 きっぱりと言い切ると、桃太郎は目を瞬かせた。

 

「純粋な音楽での総合力自体は劣っているかもしれない。けどな、この勝負は既に勝った後のエキシビションなんだよ」

 

 言葉を吐き出す俺自身、意外と熱くなっていた。

 

「お前と多田野の間にある確執も、バンドとしての実力も、全部関係ない。好きに演奏してくれば、あとは盛り上がるステージが待ってるだけだ」

 

 桃太郎は呆気にとられた顔をしていたが、やがてスッと息を整え、スティックを握り直した。

 

「ありがとう。ちょっと落ち着いた」

 

 桃太郎は深呼吸を一つしてから、スティックを軽く回す。

 その手つきに、さっきまでの震えは微塵もなかった。

 

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