疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
ステージ転換の時間、ざわつく観客の間に期待の熱が高まっていく。
すでに何組ものバンドが演奏を終え、熱気をまとった屋外ステージで、これから登場するバンドに注がれる視線は特別だった。
熱気の先に待つのは、今日の文化祭ステージのトリ。アミたちの〝Named Monster〟だった。
『次が最後のバンドになります!』
ミスコンに続き、司会役の岡先輩がマイクで告げると、歓声が一段と大きくなる。
「ついにアフロディーテちゃんだよね!」
「漫画めっちゃ良かったから応援してる!」
「ここからが本番だよね!」
噂はすでに広まっていた。
昨日のミスコンで自らを〝アフロディーテ〟と名乗り、ギターを抱えて演奏した少女。
漫画の主人公でもある彼女が今度はバンドとして登場するのだ。
観客の視線はステージ袖に集中していた。
「ごめん、カナタ! 今、どんな感じ?」
「これからアミたちの出番だ」
「間に合って良かったぁ……」
店じまいをしたヨシノリがメイド服にジャージを羽織っただけの格好でやってくる。
どうやら、着替える時間が惜しかったようだ。
メイクもコスプレ喫茶仕様で、昨日に引き続き髪もおろして緩く巻いていた。
それにいつものオレンジ色のアイシャドウが良く似合っている。
「悪いな、ギリギリまで任せちゃって」
「いいの、いいの! 昨日はたっぷり楽しませてもらったし!」
俺たちがそうやって話していると、やがてアミがギターを抱えて姿を現した。
普段はおっとりした雰囲気の彼女が、今日は堂々とステージ中央に立つ。
その背後には、ベースを背負った喜屋武と、スティックを器用に回しながら笑みを浮かべる桃太郎。三人が並んだだけで、空気が変わった。
『みなさん、こんばんは!』
アミの声がスピーカーを通してグラウンドいっぱいに響き渡る。
『はじめまして〝Named Monster〟です! 本日は最後まで残ってくださって、本当にありがとうございます!』
深々と一礼した後、顔を上げた彼女は満面の笑顔を浮かべた。
『トリなんて、恐れ多いんですけど……せっかくですから、楽しんで帰っていただけるように頑張ります!』
その一言で観客がざわつく。声に緊張の色が混じっているのに、それを上回る誠実さと真っ直ぐさが伝わってきて、自然と拍手が起きた。
『それでは、一曲目――皆さんが盛り上がれる弾けた曲をお届けします!』
ジャーン、と軽快なコードが鳴る。
喜屋武のベースが絡み、桃太郎のドラムが跳ねるように刻まれる。
明るくポップなリズムに、観客の体が自然と揺れた。
『太陽サンサン~♪ 盛り上がる今年は~♪ 歌いたい~♪』
アミの歌声が飛び込んできた瞬間、空気が一変する。
柔らかく澄んだ声に、芯の強さと伸びやかさが同居している。
歌詞は夏の恋や遊び心を描いた、陽気で開放的なもの。
「歌うっま!」
「声、めっちゃ通る!」
「一年生ってマジかよ!」
観客から感嘆の声が漏れる。アミは笑顔のまま、観客一人一人に届けるように視線を動かしながら歌う。
桃太郎のドラムは安定感抜群だった。
背の高い彼女が豪快に腕を振り下ろすたび、低音が校庭を震わせる。それでいて繊細なタッチも忘れておらず、楽曲に色を加えていく。
喜屋武のベースは楽しげにリズムを刻み、時折ステージ前へ出ては観客を煽る。
彼女の弾むようなフレーズが、まるで心臓の鼓動をそのまま音にしたように会場全体を震わせた。
そしてアミ。
ギターを抱え、歌いながら軽くステップを踏む。
いつもの控えめな彼女はもういなかった。今ここにいるのは、ステージを支配し、観客を惹きつけるギターボーカルだ。
『PEACH♪ ひっくり返る愛のマーク~♪』
サビに入った瞬間、彼女の声は一層弾けた。
夏の浜辺で弾ける波のように、恋の高揚感と解放感を全力でぶつけてくる。
観客は手を挙げ、リズムに合わせて飛び跳ねた。夕暮れの校庭に響く歓声と手拍子は、まるで大きな波のうねりのようだ。
ちなみに、この手拍子は何名か仕込みで用意してある。
文化祭実行委員長の岡先輩と取引をして手に入れた仕込みだ。
何名かが手拍子をすれば、釣られて手拍子をしていく人間がいる。
曲にも手拍子が入っているくらいだ。この曲を好きな人間がノリで手拍子をしても不思議ではないことも大きい。
曲の演奏中に手拍子が入るだけで、盛り上がっている感が出る。
こういう仕込みもステージを盛り上げるためには必要だったのだ。
桃太郎がドラムでフィルを入れ、会場をさらに煽る。
喜屋武が低音でリズムを跳ねさせ、ステージ全体が跳躍するように盛り上がる。
アミはラストまで丁寧に歌いあげた。
『PEACH×PEACE~♪』
その瞬間、校庭が揺れた。
『うおおおおお!』
観客全員を巻き込む力。それが〝Named Monster〟には存在した。
曲が終わると、歓声と拍手が嵐のように巻き起こる。
アミは肩で息をしながらも、ギターを抱え直して笑った。
『ありがとうございます……! 本当に、すごく楽しいです!』
その一言がまた観客の心を撃ち抜き、再び大歓声が沸き起こる。
昨日の時点で〝ギター少女アフロディーテ〟という物語を背負い、今日こうしてステージで歌う。すべてのタイミングが完璧に噛み合っている。
これで、負けるわけがない。
アミは観客席に手を振り、仲間と目を合わせてから次の曲へと移る準備を始めた。