疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第241話 I Can Make It!

 熱狂渦巻く屋外ステージ。

 校庭の空気はもはや文化祭の一企画の熱気を超えていた。

 まるで野外フェスの一幕のように、光と音と歓声が混ざり合い、観客の心を一つにしている。

 

 俺は客席の後ろからステージを見つめながら、思わず息を呑んだ。

 ここまで人を惹きつける演奏をするなんて、想像以上だった。

 

「すごい、すごいよ。あーちゃんと鳴久、あと鬼頭さんもすっごいね!」

 

 隣にいるヨシノリが目を輝かせて叫ぶ。

 興奮で頬が紅潮し、両手を胸の前でぎゅっと握りしめている。

 その姿につい目を奪われる。胸が高まる。

 

「あれ、なんで……」

 

 ヨシノリに対してこういうことを感じた際、俺はいつも前後の記憶が曖昧になる。

 まるで感情が強制的にリセットされるあの感覚。それがいつまで経っても訪れなかった。

 

 ヨシノリは可愛い。そんなことはわかっていたはずだ。

 俺にとってはただの幼馴染――そんなわけない。

 じゃあ、一体何なんだ。あと少しで、何かが、何かが思い出せそうなんだ。

 

『皆さぁん! 盛り上がってますかぁぁぁ!』

『うおおおおおお!』

 

 掴みかけた何かは、アミの声と観客達の声にかき消され、流れ落ちていく。

 

『ここで、私たちNamed Monsterのバンドメンバーを紹介したいと思います!』

 

 声を震わせながらも、彼女は堂々と前を向いていた。

 観客たちから拍手と期待のざわめきが巻き起こる。

 アミは横に立つ喜屋武へと視線を送った。

 

『ベース! 喜屋武鳴久!』

『はいさーい!』

 

 鳴久がストラップを引き寄せるようにしてベースを抱え込み、指で弦を叩きつける。

 ドスッと低音が地面を震わせ、続けざまにスラップで刻むリズムが飛び出した。

 観客の腹に響く重低音にどよめきが広がる。

 

『みんな、さいぐまでいっぺーあがるさー!』

 

「鳴久ー!」

「はいさーい!」

「なんくるないさー!」

 

 快活な声と合わせてベースを高々と掲げると、客席からの歓声が飛び交った。

 あれはたぶん適当に知ってる沖縄弁叫んでるだけだな。

 

『ドラム! 桃太郎こと、鬼頭桃!』

 

 背の高い桃太郎はスティックを指の間でくるりと回し、にかっと笑ってから〝だんだだんっ!〟とタムからシンバルへ一気に叩き抜いた。

 重くも爽快なビートが会場を突き抜ける。

 

『サンキュー!』

 

「桃太郎ぉぉぉ!」

「カッコいいぞー!」

 

 桃太郎が短く吐き出すように言うと、観客は一斉に声援を飛ばす。

 そして、最後にアミ自身が一歩前へ。

 胸に手を当て、ギターを軽く鳴らしてからまっすぐに観客を見据えた。

 

『そして、ギターボーカル! 佐藤愛美麗(さとうアフロディーテ)!』

 

 一瞬の静寂の後、校庭が揺れるほどの大歓声が爆発した。

 

「アフロディーテー!」

「名前負けしてないぞー!」

「女神様ー!」

「最高ー!」

 

 誰も笑わない。誰も茶化さない。

 そこにあったのは純粋な喝采だけだった。

 アミは小さく頷き、震える唇に笑みを浮かべる。

 長年コンプレックスだった名前が、今この瞬間、力強い〝旗印〟に変わったのだ。

 

『それでは、ラストです! 最後は……私たちのオリジナル曲を聴いてください!』

 

 観客の熱気が一段と高まる。

 既存の名曲で盛り上げてきた流れを、オリジナルで締める。

 文化祭ライブのトリを飾るにふさわしい流れだ。

 

 アミはギターの弦を軽くかき鳴らし、鳴久と桃太郎に合図を送った。

 ベースとドラムが加わり、軽快で前向きなリズムが紡がれる。

 会場の空気が一気に期待で満ちていくのを感じた。

 

『タイトルは――〝I Can Make It!〟』

 

 その宣言と同時に、ステージ全体が弾けるように音を放った。

 イントロは明るく、疾走感に溢れている。

 希望を掴みにいくようなフレーズに、観客の身体が自然と揺れ始めた。

 

『I Can Make It! 傷を抱えて~♪ 蹲ったままでも~♪ もう一度立ち上がれる、君なら大丈夫さ~♪』

 

 アミの声が響き渡る。

 未来への不安を抱きながらも、それでも立ち上がる。

 そんな決意を、まっすぐな言葉に乗せて歌い上げていた。

 

 桃太郎のドラムは重厚で、しかし軽やかな跳ねを持っている。観客の心拍とリンクするように、確実に会場全体を鼓動させていた。

 鳴久のベースはその上で縦横無尽に踊り、音を厚く支えながらも楽しそうに動き回っている。

 アミのギターは、歌声と同じく真っ直ぐ高らかにかき鳴らされている。

 

 サビに突入すると、観客は自然に手を振り始め、〝I Can Make It!〟のフレーズに合わせ、拳が一斉に突き上げられる。

 この瞬間、この場にいる全員が音楽の一部になっていた。

 

『つまずいて、立ち止まっても~♪ 何度でも、言ってあげる~You Can Make It!』

 

 歌うたびに、アミの表情が輝きを増していく。

 彼女自身が、この瞬間を誰よりも楽しんでいるのが伝わってくる。

 何よりも大きいのは、サビの部分がカノン進行で作られていることだ。日本人にとって耳馴染みが良く、未来でのヒット曲にも多用されている技法だ。

 

 当然、ただでさえこのバンドはすごいというフィルターが掛かっている状態のNamed Monsterのオリジナル曲は、多田野のときと違ってこの場にいる全員に刺さっていることだろう。

 

 間奏に入り、アミがリードギターを奏でると、喜屋武が観客に煽りを入れた。

 

『まだまだ声出せるよねぇ!?』

 

 喜屋武の煽りに観客が応じる。

 

『ラストサビ、一緒に歌って!』

 

 鳴久の合図で、客席のボルテージはさらに跳ね上がった。

 そして、最後のサビ。

 

『I Can Make It! ほら、手を伸ばせば~♪ 掴めるさ、夢の欠片~♪』

 

 アミの声と観客の声が重なり、校庭全体に響き渡る。

 

『We Can! We Can! 描いた夢を、手に~♪』

 

 ラストのコードをジャーンと鳴らし、桃太郎がシンバルを高らかに叩きつける。

 音が消えた瞬間、会場には一拍の沈黙が訪れ――

 

『うおおおおおおおお!』

 

 割れんばかりの歓声が爆発した。

 三人は肩で息をしながら、深くお辞儀をした。

 その姿は汗に濡れていたけれど、誇らしさと充実感に満ちていた。

 

『ありがとうございました! Named Monsterでした!』

 

 最後の叫びとともに、拍手の雨が彼女たちへと降り注ぐ。

 まさに最高のステージだったと言えるだろう。

 

 そして、その最高を超えるのはこれからだ。

 

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