疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
最高のライブだった。
いや、最高以上だったと言ってもいい。
Named Monsterの三人で挑んだ二日間の文化祭ライブ。
お客さんが手を振ってくれて、一緒に歌ってくれて、最後にはアンコールまで。
あの光景を目に焼き付けたとき、胸が熱くなって、涙が出そうになった。
こんなライブができるなんて、思ってもみなかった。
もちろん、私たちだけの力じゃない。カナタ君が裏で準備してくれて、先輩や仲間たちが協力してくれて、ようやく掴めた舞台だった。
「クソッ! なんで、なんで俺たちがあんなコピーバンドもどきに!」
ステージ裏の空気を裂いた怒声。
多田野君だった。肩からベースを乱暴に外す。
その目は赤く、悔しさに滲んでいた。
「遊……」
横にいた桃太郎ちゃんが小さく声をかける。それに対して、彼は振り払うように首を振った。
「桃! なんだあの選曲にオリ曲は! ドラマやアニメの主題歌に、前向きペラペラアップテンポのオリ曲……あんな温いのでお前満足できんのかよ! あんなのただのお遊びだろ――」
「少なくとも!」
桃太郎ちゃんの声が響く。長身の彼女がまっすぐに多田野君を見返していた。
「遊のとこでやるより楽しかったよ」
彼女の言葉に、多田野君が絶句する。
その表情で私は何となく分かってしまった。きっと、誰よりも認めたくなかったのだ。
だからこそ、言うべきことは言わなきゃならない。
「多田野君」
彼がギロリとこちらを向く。
その強い眼差しから目を逸らさず、真正面から受け止める。
「いい曲を作って、いい演奏をすれば勝手に客に伝わる。……そんな都合のいい話は、ありません」
言葉にすると、胸の奥で何かが震えた。
これはずっと考えていたこと。Named Monsterとして練習して、カナタ君とも話して、ようやく掴んだ答え。
「観客の心を掴むには、演奏以外の努力が必要です。技術を見せつけるだけじゃ、人は動きません。私たちは演奏の合間に声をかけて盛り上げました。曲も、この場にいる人が一緒に歌って楽しめるものを選びましたし、作りました。それは全部、目の前のお客さんに〝届けたい〟って思ったからです」
「……っ」
多田野君の唇が震える。
「あなたたちの演奏は、確かに上手でした。だけど、それはあくまで〝演奏が上手〟なだけ。お客さんに向かう音じゃなかった。ただ、自分がやりたいことをやって、自分たちが満足しているだけ」
私は拳を握りしめた。
彼にキツイことを言うのは怖かった。けれど、このままじゃいけないとも思った。
「多田野君には、人を思いやる気持ちが欠けている。音楽を〝届けたい〟相手がいない。ただの自己満足だから、心に響かないんです」
強く言い切ると、彼は顔を歪めた。怒りとも、悲しみともつかない感情。
「あなたの音には、決定的にハートが欠けている」
静かに告げたその瞬間、彼の肩がわずかに揺れた。
周りの仲間たちも言葉を失っている。私は深呼吸をひとつして、言葉を重ねた。
「音楽は誰かの心に届いて、初めて意味があるんです。音を楽しむから音楽なんです」
夕暮れのステージ裏。
多田野君は何も言えず、ただ俯いていた。
「遊。私たちの勝ちだよ」
Named Monsterの勝利。それを桃太郎ちゃんが告げる。
「勝者の条件。勝ったほうが、負けたほうに〝何でも言うことを聞かせられる〟だったよね。あれ、私が使っていい?」
「はい、どーぞ!」
「桃太郎が使うのがいいさー!」
私も喜屋武ちゃんも桃太郎ちゃんが前を向くのを望んでいる。
カナタ君と由紀ちゃんとはまた違う形の幼馴染。
同じ道にいるからこそ、すれ違ってしまった二人。
「遊。彼女を大事にしてね。私とはもう幼馴染の距離感で接しないで」
その関係を桃太郎ちゃんは終わらせた。