疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
うぅ……頭痛い。
泡盛飲み過ぎた……度数強いよ、あのお酒……。
顔をテーブルに伏せていた私は、肩を揺すられて目を覚ました。
「お客さん、そろそろ閉店なんですけど……」
控えめな声に、重たい瞼をどうにか持ち上げる。
視界に入ってきたのは、白い肌に落ち着いた雰囲気を纏った女の子だった。
がちま屋の制服は派手さこそないけれど、清潔感があって、その子の柔らかい雰囲気にとても似合っていた。
染み一つないエプロンと、胸元で揺れる小さなネームプレート。そこに書かれた名前が視界の端で霞んで読めない。頭痛で焦点が合わないのだ。
ただ、その声だけは鮮明に耳に残った。
いい声だな。そう思った瞬間、記憶の奥がざわついた。
この人。どこかで会ったことがあるような気がする。
けれど、それは現実の記憶じゃない。私が見てきた、あの〝夢の続き〟の中にある誰かの姿と重なっていた。
「すみません……酔っちゃって。すぐに帰ります」
苦笑いを浮かべながら、私は荷物をまとめる。
がらんとした店内。
さっきまで賑やかに酒を飲んでいた人たちはすでに帰り、残っているのは私と数人の店員だけ。
テーブルには泡盛の空ボトルが一本転がり、グラスの底に残った氷がかすかに音を立てていた。
ギターケースの肩紐を持ち上げようとしたとき、その店員の彼女が目を丸くした。
「……ギター、弾くんですか?」
「ええ、こう見えてメジャーデビューしてるんですよ」
自慢げに答えたけれど、声がしゃがれていて自分でも情けなく思う。
「えー! すごいですね、お姉さん!」
弾けるような声。驚きと尊敬が入り混じった、無邪気な響き。
その声音に、ふっと胸が揺れた。
懐かしい響き。夢の中で何度も聞いたことのあるような声だった。
もしもの世界に行ったときに、セッションしたバンドメンバー。
そして、私にとって忘れられない高校時代の出来事。
名前を揶揄われたとき、私を庇おうとして、リーダー格のクソ女に屈して泣きそうな顔をしていた女の子。
「もしかして、キャンちゃん?」
「えっ」
その名前を口にした瞬間、彼女の肩がぴくりと震えた。
夢の続きで見た文化祭での最高のライブ。
アフロディーテの名を笑わずに、ただ一緒に音を鳴らしてくれた仲間たち。
あの光景を忘れられるわけがない。
「えっ、どうして私の名前を?」
目を丸くする彼女に、私の鼓動が一気に早まる。
震える手でケースの取っ手を握りしめる。
「やっぱり……キャンちゃんだ」
思わず呟いた声は、酒のせいで震えていた。
けれどその響きは、確かにあの頃の記憶を呼び起こしていた。
彼女は数秒、私をじっと見つめて呟く。
「もしかして、佐藤さん?」
「そ、アフロディーテ。あなたと同じ高校だった、佐藤愛美麗」
「っ!」
名前を名乗った瞬間、キャンちゃんの表情が苦痛に歪む。
その反応は、あの夢の中と同じだった。私の名前を口にすることが、彼女にとってもまた呪いのように重くのしかかっていたのだ。
私は小さく首を振る。
「安心して。今はこの名前、嫌いじゃないんだ」
「え?」
彼女の戸惑いの声に、私は微笑む。
かつて憎んでいた名前を、今は堂々と名乗れるようになった。
それは夢の中で仲間たちが、観客が、あの最高のライブの中で受け入れてくれたからだ。
私はゆっくりと息を吸い込み、そして言った。
「ねぇ、キャンちゃん。バンドやろうよ――私はあなたと音楽をやりたいんだ」
言った瞬間、彼女はぽかんと口を開けた。
数秒の沈黙のあと、キャンちゃんはふわりと笑った。
「ゆたしくうにげーさびら!」
その笑顔は、夢の中で何度も見た笑顔と同じだった。