疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
肉が焼ける音が食欲をそそる。
網の上で脂が弾け、立ちのぼる煙が天井の換気口へと吸い込まれていく。
ここは上野にある焼肉食べ放題のチェーン店だ。
今日は俺、ゴワス、ナイトの三人で集まって、男子でただ腹いっぱい肉を食べる会である。
「タン塩追加! あとハラミ二皿な!」
そう叫んでいるのはゴワスだ。
ひたすら焼けた肉を豪快に食らう。
普段から部活で動いているのとそもそも身体がデカいため、胃袋も大きいのだろう。
「おい、ゴワス。まだ皿に残ってるだろ」
「全部食うから安心しろ!」
「食べ放題なんだから焦ることないだろうに……」
苦笑しながらナイトは箸を動かす。
「カナタも焼いてばかりいないで食べなよ?」
「俺は、肉よりも冷麺が楽しみだから抑えめに食べてるんだよ」
「焼肉食べに来ているのに、冷麺のほうが好きなのか……」
むしろ、冷麺なんて焼肉のときくらいしか食えないだろ。
「やっぱ人の金で食う肉はうめぇ!」
「こいつ、肉じゃなくて情報を食ってやがる」
ゴワスの分は俺の奢りだ。
夏コミで世話になったときの礼がバタバタしていてできていなかったからな。
ナイトを誘ったのは、せっかくだからたまには男子だけで気兼ねなく集まろうということになったからである。
「それでよ、奏太。お前のラノベ、もうすぐ発売だろ?」
「来月には書店に並ぶはずだな」
「すげぇよなぁ。高校生で作家ってだけでも化け物なのに、漫画の連載まで決まってんだろ? カミラの聖剣の連載はいつ頃なんだ」
「そっちは一応年明けからだな」
「なんか奏太が遠くの存在になってく気がするわ」
彼は真顔になり、肉についたタレをライスにバウンドさせながら口を開く。
「奏太は、このまま作家一本で食ってくのか?」
「それは僕も気になってた」
ナイトも箸を止め、こちらに視線を向ける。
真剣な空気が広がる。焼肉屋の喧噪の中で、俺たちの席だけが静かになった。
いや、焼き肉屋でそんな真面目な空気出されても。
「理想を言えば、それができたら一番だ。作家一本で生活できるなら、こんなに幸せなことはない」
しかし、現実は甘くない。
特に作家の印税収入と未来での出版業界の状況を考えれば、専業はまず無理だ。
ラノベ作家は一作品ヒットした程度じゃ食っていけない。
それこそアニメ化して大ヒットとなれば話は別だが、それは運も絡む案件だ。将来設計に組み込む内容じゃない。
「ま、現実的に考えて、俺は専業でやるつもりはない」
二人の視線が強くなる。どんだけ真剣なんだよ。
俺は少しだけ笑って続ける。
「内部推薦で大学に行って、副業可能なホワイト企業に就職する。作家活動はそこで続ける。兼業作家ってやつだ」
「かなり堅実で具体的だね」
ナイトが感心したように呟く。
「小説家なんていつ食えなくなるかわからないからな。現実は見とかないと」
その点、トト先やケイコ先輩のように実力とネームバリューを持った絵が描ける人間は引く手数多だろうけど。
「そういうナイトはどうなんだ?」
「僕は……まずは内部推薦で大学進学かな。考える時間を作って、それから決めたい」
「内部推薦で行く大学は実質モラトリアムだからな。受験なしで大卒資格も手に入るなんて行き得だ」
慶明大学は世間的に見ても、そこそこ知名度のある大学だ。トップクラスというほどではないが、就職の面で見れば、有利側の学歴になるだろう。
ちなみに、俺は楽に卒業できる学部も単位の取りやすい授業も覚えている。
どうして、こういうくだらないことばっかり覚えているのだろうか……いや、今となっては助かるんだけども。
「そんでゴワスはどうするんだ。やっぱり、内部推薦か?」
俺が水を飲みながら問うと、ゴワスは手を止めて黙った
数秒の沈黙。焼けすぎたカルビから煙が立つ。
「……俺は、なんも考えてねぇ」
小さく、しかし確かにそう言った。
肉をかっこむ彼の顔に影が差していた。
「ま、俺は今が楽しけりゃそれでいいよ」
そして、誤魔化すようにゴワスはタレをバウンドさせたライスをかき込むのだった。