疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
漫研の部室を出ると、窓の外はすっかり赤く染まっていた。
鞄を肩にかけ直しながら、足を体育館の方へ向ける。
体育館まで迎えに行くとヨシノリが揶揄われるだろうから最近は控えていたのだが、部活中のゴワスの様子も気になったのだ。
体育館の中に入ると、バスケットボールを叩く音とシューズの底が擦り減る音が反響していた。
男バスの方へと目を向けてみれば、ゴワスがひとりでシュート練習をしている。
既に他の部員は帰ったらしく、広い体育館に残っているのは彼とマネージャー数人だけ。
「おーい、ゴワス」
声をかけると、彼は振り向きもせずにシュートを放った。
リングに当たって大きく弾かれる。
「……悪い。ちょっと集中したいから」
短くそう言って、またボールを拾いに走っていく。
額から汗が滴り、呼吸も荒い。
そのフォームはどこかぎこちなかった。
俺はそれ以上は声をかけず、女バスの方にいたヨシノリを見つけた。
男バスはさっさと切り上げて帰っているのに対し、女バスは試合も近いからか力を入れて練習しているようだ。
「よっすー、カナタ。わざわざ、どうしたの?」
「いや、漫研のほう終わったから迎えにきた」
「珍しいじゃん。最近は来てくれなかった癖に~」
ヨシノリは「おりゃおりゃ」と俺の脇腹をつついてくる。
なんだそれ。可愛いな、おい。
「こら、由紀。彼氏君来たからって見せつけるようにいちゃつくなよー」
「いや、カナタはただの幼馴染ですから!」
「……なんであんたはそれが通ると思ってんの?」
女バスの先輩方は心底不思議そうな表情を浮かべていた。
それから体育館を出て、二人で校門へと歩き始める。
「にしても、ジャージのまま一緒に帰ってほしいって、またマニアックなリクエストね」
「やっぱ運動部だし、今後のポニテ馴染の描写的にも見ておきたくてな」
「……汗かいてるし、こっちとしては着替えたかったんだけど」
微妙に俺から距離を取りながらヨシノリはそうぼやく。
その汗の匂いも含めて青春の一ページだというのに。
というか、そもそも爆裂噴射した制汗剤の匂いしかしない件について。
「最近漫研の方には顔出してないけど、そっちは順調?」
「冬コミの新刊の内容も決まったし、あとは俺が提出したネームをトト先とケイコ先輩が形にするだけだ」
今回の冬コミでは新刊が二冊でる。
くっころ飯の続きと、ケイコ先輩が作画担当をしてくれる新作だ。
本音を言えば、アクスタとかグッズ系を出してみたい気持ちもあるのだが、それをやると刷ることができる部数が減るので断念した。
「あんた、書籍化やらコミカライズとかもあったのに、よくそんな早さで上げられたわね」
「いろいろ前倒しで動いてたから余裕ができたって感じだな」
「その開いた余裕に文化祭の準備を突っ込んで倒れたってわけね……」
それについては本当に反省している。
高校生の若い身体なら余裕だと自分を過大評価していた。
健康第一。もっと意識せねば。
「そういえば、ゴワスの様子おかしくなかったか?」
俺が切り出すと、ヨシノリは苦笑いを浮かべた。
「気づいた? シュートもパスも、全然集中できてなかったみたいだよ。珍しく先輩に怒られてたし」
「やっぱりか」
「文化祭が終わって気が抜けたのもあるかもね」
「いや、たぶん将来のことで悩んでるんだろ」
「将来?」
ヨシノリはきょとんとした顔で目を瞬かせた。
「この前聞かれてさ。まだ高校生だから焦ることないだろうに」
「焦るよ」
真剣な声音に俺は思わず彼女の横顔を見やった。
口元こそ楽し気に笑っていたが、その瞳は不安に揺れていた。
焦りという言葉が、彼女の声色から痛いほどに伝わってきた。
「だって、カナタも高校生じゃん。身近にあんたみたいなのいたら嫌でも考えちゃうでしょ」
俺は言葉に詰まった。
自分にとっては二周目だからこそ、ある程度未来の道筋を知っている。
だが、みんなにとってはこれが一度きりの人生だ。
その隣で俺だけが答えを握っているように見えるのなら焦るのも無理はない。
それから、しばらく無言で歩いた後、俺はヨシノリに問いかける。
「ヨシノリは、将来どうするつもりなんだ?」
俺の言葉にヨシノリは足を止め、鞄のストラップを握りしめた。
夕焼けの光に照らされた顔は、いつもの快活な笑みではなかった。
「やりたいことは、あるよ。一応ね」
「あるのか」
「うん。小説とか音楽とか絵とかじゃないけどね」
そこで、彼女は少しだけ視線を落とした。
「でも、それを仕事にできるかって言ったら……無理だと思う」
苦笑いを浮かべる横顔は、普段の明るさとは対照的だった。
冗談めかして言ったはずなのに、その声はどこか震えていた。
「夢ってさ、見てる間は楽しいけど、現実に持ち込むと重いんだよ。あたしらみたいな一般人にはね」
ヨシノリは靴の先でアスファルトを軽く蹴りながら呟いた。
俺は答えを返せずにいた。
二人とも、未来という言葉に縛られている。
俺が一周目で見てきた答えは、彼らにとってはまだ霧の向こうにあるのだ。
そのことが、胸に小さな棘のように刺さったまま、夕暮れの道を歩き続けた。