疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
ゴワスの姉がリリさんだと理解した瞬間、俺は反射的に持ってきた手土産を差し出していた。
「あの、ご挨拶が遅れてしまい大変申し訳ございません。私、隆盛君の友人の田中奏太と申します。夏のコミックマーケットでは大変お世話になりました。こちらつまらないものですが……」
「うちの弟と違って礼儀正しいのね……わざわざ、ありがとう」
にこりと微笑み、袋を受け取って丁寧に持ち直す。
その仕草に、社会人時代の記憶が重なる。
仕事を誰より早く片付け、定時で颯爽と帰っていった背中。
会議室で数字を突き付けられ、胃を押さえながら聞いていた面談。
それでも必ず最後はフォローしてくれた姿。
すべてが鮮明に重なり、自然と背筋が伸びる。
「わあ! これ私が好きなやつだ。君、センスいいね」
リリさんが嬉しそうに目を細める。
それはそうだ。一周目で、あなたから教わった店だもの。
「いいお店を知ってるのね。ここ、昔から評判が良いの。味も間違いないわ」
社会人時代と同じ反応だ。
不思議な既視感に、思わず苦笑してしまう。
「さあ、入って入って」
「お、お邪魔します」
なんだろう。家に招かれているだけなのに、四半期面談で会議室に入るときのような緊張感がある。
「うちの愚弟はまだ寝てるからソファにでも座ってちょっと待ってて。叩き起こしてくるから」
「あ、はい」
さりげなくお茶を出しつつ、リリさんは階段を駆け上がっていく。
『ゴラァ隆盛! お友達の田中君、もう来てるでしょ! とっとと起きな!』
『おわぁ、姉ちゃん!? いきなり部屋入ってくんな!』
階上から怒号と悲鳴が入り混じった声が響き渡る。
リビングの壁が揺れそうな勢いに、つい笑いが零れてしまう。
それからしばらくして、寝癖でボサボサ髪のままのゴワスが降りてきた。
「悪い、奏太。待たせたな」
「気にするな。待ってる間も新作の執筆してたから大丈夫だ」
今日もヨシノリからもらったポメラは大活躍である。
「さすがプロだな。部屋、二階だから上がってくれ」
ゴワスは笑いながら俺を部屋に招き入れる。
案の定、二階の自室に通された瞬間、予想通りの光景が広がった。
教科書や漫画、コントローラーが雑に積み上げられ、床には脱ぎっぱなしのジャージが転がっている。
ザ・高校生男子の部屋という感じだ。
「ゴワスって意外とゲームやるんだな」
春先のときは典型的なオタク嫌いの陽キャだったというのに、人は変わるもんだ。
「ま、気晴らしにな」
「へぇ、レトロゲームにも手を出すとはなかなかのハマり具合だ」
ゴワスのゲーム機はボタンやスティック部分がすり減っており、かなり使い込んでいるように見えた。
何世代も前のハードが揃っているのは、相当なゲーマーっぷりだ。
「それで、今日は何やるんだ?」
床に散らばった教科書やコントローラーを踏まないように気をつけながら腰を下ろす。
「適当に選んでやろうぜ」
「だったら対戦系でいくか」
それから俺たちはひらすらゲームに興じていた。
レースゲーム、格闘ゲーム、パーティーゲーム。
「しゃあっ、コンボ決まった!」
「まだだ!」
いろんなゲームで対戦したが、ゴワスにはまるで歯が立たなかった。
「くそ、再戦だ」
「よし、手加減はしない」
ゲームが始まると、ゴワスの表情は真剣そのものになる。
大柄な身体を前のめりにし、コントローラーを握りしめる姿は、まるで試合に臨むアスリートのようだ。
必死に指を動かし、技を繋げる。テレビ画面の中でキャラクターが激しくぶつかり合い、体力ゲージが削れていく。
ゴワスは黙々と指を走らせる。
気づけば二人とも時間を忘れ、ゲームに没頭していた。
何度目かの対戦を終えたころ、部屋の外からノックが響いた。
「二人とも、いつまでゲームやってんの。目が悪くなるわよ」
階下からリリさんの声が届いた。
「はいよー」
ゴワスが雑に返事をし、俺と目を合わせて肩をすくめる。
時計を見れば、もう夕方を回っていた。外はすっかり暗く染まっていて、季節が冬へと移り変わっているのだと実感させられる。
「やべ、こんな時間か」
「時間忘れるくらい熱中してたからな」
笑いながら汗をぬぐう。ゲームでここまで夢中になれるのだから、やっぱりゴワスは根っからの勝負好きだ。
そういうところが、バスケでいい成果をあげているのだろう。
「もうこんな時間だし、田中君も一緒にご飯食べていったら?」
ゴワスと一緒にリビングに行くと、リリさんがそんな提案をしてきた。
「ちょっと妹に聞いてみます」
愛夏が夕飯を作ってくれていたら悪い。
「もしもし、愛夏? 今日の夕飯なんだけど――」
『あっ、ごめんお兄ちゃん! 今日、ナイト先輩とデートだから忘れてた!』
「あー……それならいいんだ。飯いらないって連絡だったから。ごゆっくり」
そう思って連絡をしてみたら、ちょうど夕飯を作っていなかったらしい。
あいつらも着実に関係が進行しているらしい。喜ばしいことだ。
「大丈夫でした。お言葉に甘えてご馳走になります」
そういえば、リリさんと食事をするのは飲み以来だったな。