疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第259話 チームでの飲み会

 それは一周目のことだった。

 当時、仕事のできない俺はリリさんや周囲のフォローされてばかりだった。

 死ぬ気の執筆期間に入ってからも、それは変わらなかった。

 

「何飲まれますか?」

「私は生で」

「あー、僕はプリン体避けたいし、レモンサワーで」

 

 リモートワークが主体になってから出社が月四回になった。

 チームで揃って出社する日には、いけるメンバーで集まって飲みに行くこともある。

 

 とはいえ、うちのチームには時短勤務の人も多いし、大体集まるメンバーはこの三人になりがちだった。

 

 チームリーダーであるリリさんこと、斎藤梨利子。

 社長の代替わり前から勤めているトムさんこと、長久勤。

 そして、仕事のできない小説家志望の平社員、俺。

 

「すみません、生二つとレモンサワー一つ! アジフライとエイヒレ、あと和辛子もください」

「ありがとね、田中君」

「いえいえ」

 

 死ぬ気の執筆期間とはいえ、いつも世話になっている二人から誘われた以上、飲みを断る気にはなれなかった。

 

「しっかし、田中氏も頑張ってるねぇ。最近のページ作成のことなら田中氏のほうが詳しいんじゃないの?」

「知識じゃトムさんには敵いませんよ。まだまだチケット消化率も足りてないですし」

「それはそう。田中君は詰めが甘いからミスもまだ多いし」

 

 さらっと刺しつつも、リリさんは笑っていた。

 

「生二つとレモンサワーお待たせしましたー」

 

 店員がジョッキを置き、泡の立つグラスが視界を埋める。

 

「「「乾杯!」」」

 

 グラスを軽く合わせ、ビールを呷る。喉を通る冷たい刺激が胃に落ちていく。

 仕事の疲れも、執筆の焦燥も、一瞬だけ霧散した。

 

「田中氏。執筆の方はどうなん?」

「とりあえず、シンフォニア文庫大賞の締め切りまでに四作は書き上げられそうです」

「ほえー、一作十万文字くらいっしょ? よく書けるなぁ」

 

 トムさんは感心したように焼き鳥を頬張る。

 

「慣れればあっという間ですよ」

「仕事もその調子で頑張ってね」

「うっ……善処します」

「嘘嘘。最近の田中君は前より仕事できるようになってるし、待ちになることも減ってるから」

 

 リリさんのジョッキはいつの間にか空になっていた。手品かよ。

 

「大変そうなときは有給取ってちゃんと休みな。昼休みもずっと原稿作業してるでしょ」

 

 死ぬ気の執筆期間に入ってからというもの、俺は飯は流動食に変えて昼休みもひたすらポメラを叩き続けていた。

 隣の席で鬱陶しかろうに、リリさんは時々コーヒーを入れてくれたり、ただただ見守ってくれていた。

 迷惑ばかりかけていた俺に、なぜそこまでしてくれるのか。

 ずっと、それが気がかりだった。

 

「リリさんは、どうして俺を応援してくれるんですか。だって、ほら。俺、全然仕事できないじゃないですか」

「入社して三年くらいは田中氏もアレだったもんねぇ」

 

 トムさんも特に否定せずに苦笑している。

 

「君がチームに貢献できるようにするもの私の仕事だからね。執筆活動が仕事にいい影響が出てる以上、応援するのは不思議なことじゃないでしょ」

「確かに会社のデスクでも執筆するようになってから田中氏調子いいよね」

 

 リリさんの言葉に、トムさんは納得したように頷く。

 

「……まあ、弟に似てて放っておけないのはあるかもねぇ」

 

 ハイペースで飲み続けていたリリさんは、独り言のように呟く。

 

「弟はやりたいこともなくて、大学も行かずにフリーターやって、デキ婚して、結局奥さんには逃げられちゃってさぁ……姪っ子も振り回されてかわいそうでねぇ」

「なんか波乱万丈ですね」

 

 その弟さんと俺の一体どこが似ているというのだろうか。

 

「夢もなく、目標もなく、生きるためにただ給料をもらいに会社行ってるとこ?」

「随分ハッキリ言いますね……」

 

 酔っているからか、リリさんは愚痴るように続ける。

 

「田中君はやる気もないし、人からどう見られようが気にしないし、気遣いもできない。でも、さ。君が夢を持ってて、それに向かってまっすぐに努力できるって知って安心したんだよねぇ」

「リリさん……」

「だからさ、死なない程度に頑張りなよ?」

「はい……ありがとう、ございます……!」

 

 リリさんの言葉に、胸の中がじんわりと暖かくなった。

 酒のせいもあるだろうが、それだけでは説明がつかない。

 

 誰かが本気で自分のことを気にかけてくれる──その事実が、妙に嬉しかったのだ。

 

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