疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第26話 何よりも贅沢なひととき

「そうだ、書店の新作コーナーを見たいんだけど付き合ってくれないか?」

「どっちみち一人で帰るのも退屈だしね。いいよ、付き合ってあげる」

 

 慶明高校は神保町と水道橋、お茶の水、その三駅の間に位置している。

 俺が行きたい書店は、教科書などで有名な書店の本社ビルだ。

 一周目でも学校帰りにはよく寄っていた。十年後にはなくなってしまうのが惜しい。

 書店に向かう途中、楽器店が立ち並ぶ楽器街を二人で歩く。

 

「ここって楽器屋さん多いよね」

「奥の方まで行けば画材屋さんもあるぞ」

 

 神保町周辺って、マジでいろいろ揃ってるよな。神保町は本屋街、お茶の水は楽器街に画材屋、小川町の方面に行けばスポーツ用品店が並んでいるし、意外とこの高校を選んだのは正解だったんじゃないかと思う。

 

「部活やってる人には天国じゃん」

「備品の買い出しとかも楽そうだしな。ヨシノリもバスケ用品買うときは行ってくれよ。いつでも付き合うから」

「へぇ、それなら今度お言葉に甘えて荷物持ちお願いしちゃおっかな」

 

 そう話しながら歩いていると、ふと目に入った楽器店の前でアミの姿を見つけた。

 

「あれ、アミちゃんじゃない?」

「そういや、バイト始めたって言ってたな。ここだったのか」

 

 店内を覗き込んでみるとカウンター越しに接客をしているアミは、普段の制服の上から店のロゴが入った黒いエプロンを着けていた。

 

「いらっしゃいませー……って、カナタ君と由紀ちゃん!?」

 

 接客した俺たちの顔を見て、アミは驚いたように目を丸くした。

 

「あー、バイト中悪いな。たまたま見かけたから気になって」

「バイトの邪魔しちゃってごめんね」

 

 アミは一瞬戸惑ったような表情を浮かべたが、すぐにいつもの柔らかい笑みを取り戻した。

 

「いえ、大丈夫です。お二人とも、お店を覗いてくださってありがとうございます」

「あはは……ただの冷やかしだけどね。てか、お店のエプロン似合ってるじゃん」

「ありがとうございます」

 

 アミは小さく頭を下げ、手慣れた動作でカウンターに手を添えた。その仕草には、まだ少しぎこちなさが残っているものの、接客業に慣れようとしている努力が感じられる。

 

「楽器店でバイトしてるってことは、ギターとか弾けたりするの?」

「えっ、それは……」

 

 ヨシノリが興味津々に尋ねると、アミは一瞬視線を逸らして口籠った。

 その反応は、弾けるけど今は隠したいという風に感じられた。

 

「バイトしてるだけで弾けるようになったら苦労しないだろ」

 

 俺が軽くフォローを入れると、アミは助かったように微笑む。

 

「そ、そうですね。楽器は好きですけど、弾くのはちょっと難しいかもです」

 

 今は突っ込まないでおくのがいいだろう。俺もこういう人の機微がわかるようになるとは、成長したんじゃないだろうか。

 その時、奥から店員が顔を出した。

 

「あーちゃん、お客様対応終わったらこっち手伝ってくれる?」

「はい!」

 

 アミが元気よく返事をすると、ヨシノリは目を丸くした。

 

「あーちゃん?」

「ああ、バイト先ではそう呼ばれているんです」

「へぇ、可愛い呼び方じゃん! あたしも今度からあーちゃんって呼ぼうかな」

 

 そう言って、ヨシノリは満面の笑みを浮かべた。

 さて、いつまでもバイトの邪魔しちゃ悪いな。

 

「それじゃ、俺たちそろそろいくわ」

「はい。では、また学校で!」

 

 アミは手を振ると、店の奥へと戻っていった。

 

「あーちゃん。ギター、絶対弾けるよね」

「だろうな。ま、あんま言いたくないみたいだけど」

 

 ヨシノリと俺は顔を見合わせ、苦笑しながら店を後にした。

 

 その後、久しぶりに訪れた書店では、ヨシノリと共に新作コーナーをじっくりと物色することにした。

 紙とインクの独特な香りが鼻をくすぐる。広々としたフロアには、整然と並ぶ本棚と、ジャンルごとに分けられたディスプレイが目に入る。

 

「さて、何か面白そうな本あるかな」

 

 俺は文庫コーナーへ足を運びながら、平積みされている本のタイトルを一つずつ確認していった。新刊の帯には派手なキャッチコピーが踊り、どれも読者の興味を引こうと必死になっている。

 そっか、この作品まだ連載中だったか。

 

「カナタ、最近のラノベってどれが流行ってるの?」

 

 ヨシノリが隣から覗き込む。

 

「そうだな……作中に出てくるオリジナルの部活動するやつとか、オンラインゲームの話とかだな」

 

 ライトノベルは一般文芸に比べてバカにされがちだったが、ここから時代が進むとネット小説がバカにされてライトノベルが評価される時代が来るんだよな。

 何で文字媒体のコンテンツはこうもバカにされてしまうのか。

 

「やっぱり流行りってあるんだね」

 

 ヨシノリは興味深げに棚を眺める。

 

「いつか、ここにカナタの作品も並ぶんだろうね」

 

 どこかしみじみとした口調で、彼女は感慨深げに呟いた。

 

「そのためにも、もっと頑張らないとな」

「頑張りすぎて倒れたりしないでよ」

 

 大丈夫。それについてはもう経験済みだ。何なら死んでからタイムリープしているくらいである。

 俺は手に取った一冊をパラパラとめくりながら、活字の並びを目で追う。やはり書店で実際に本を手に取ると、電子書籍とは違った感覚がある。ページをめくる音や紙の手触りが心地良い。

 

 うん、やっぱり俺の作品のほうが面白い。

 

「もし倒れたときは看病してくれ」

「看病イベントの参考になるからでしょ」

「何故わかった」

「ホントにあんたは……」

 

 ヨシノリはため息を吐くと、手に取っていた作品を戻して奥の棚へと足を進めた。

 

 何か、こういうのいいな。

 ヨシノリと本屋を巡る時間は、俺にとって何よりも贅沢なひとときだった。

 




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