疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第260話 斎藤家の食卓

 斎藤家で夕飯をご馳走になることになった。

 広いリビングのテーブルには、大皿に盛られたアジフライが湯気を立てて並んでいる。衣はこんがりと黄金色に揚がり、皿の端には大根おろしと和辛子が控えめに添えられていた。油の香ばしい匂いが鼻腔をくすぐり、胃袋が小さく鳴る。

 

「さ、冷めないうちにどうぞ召し上がれ」

 

 ゴワスの母親が、にこやかに笑顔を浮かべた。

 

「すみません、ご馳走になってしまいまして。いただきます」

 

 俺は思わず深々と頭を下げ、箸を取った。

 せっかくご馳走になるのだ。遠慮して手を出さない方がかえって失礼だろう。

 小皿に醤油を少し垂らし、そこへ和辛子を溶かし込む。箸先で混ぜ合わせると、鼻に抜けるような辛みが立ち上がった。衣の一切れをそこへさっとくぐらせ、口へ運ぶ。

 

「すごくおいしいです!」

「お口に合ったようで良かったわ」

 

 正直、味の良し悪しはわからないけどそれを言うのは無粋というものだ。

 

「あれ、奏太。お前も姉ちゃんと同じ食い方するんだな」

 

 隣のゴワスが驚いたように眉を上げた。

 

「えっ、ああ、一周目……じゃなくて、前にお世話になった人に教わったんだ。アジフライはソースじゃなくて和辛子と醤油で食べるのが一番だって」

 

 口に含んだ瞬間、カリッとした衣の奥から、ふわりと白身の旨みが広がる。辛子の鋭い刺激と醤油の塩気が魚の旨味を際立たせている……と、よく居酒屋でアジフライを口にしていたリリさんが言っていた。

 結局、俺はいまだに情報を食べていただけだった。

 

「へぇ、気が合うわね。普通の高校生はソース一択でしょ」

 

 リリさんが感心したように笑い、同じように辛子醤油につけて頬張る。

 

「ソースはソースで美味しいんですけどね。こうやって食べると、魚の旨味が引き立つというか」

「ふふ、分かってるじゃない」

 

 嬉しそうに目を細められ、胸が少し熱くなる。なんだか、懐かしいな……。

 そのやりとりを見ていたゴワスの母親が、ふっと笑みを深めて俺に視線を向けた。

 

「それにしても、田中君って本当にしっかりしてるわよねぇ。礼儀正しいし、ちゃんと手土産まで持ってきてくれて……」

「いえ、そんな。普通のことですから」

「普通じゃないわよ。高校生でここまで気が回る子なんて滅多にいないわよ」

 

 その声色は柔らかかったが、誉め言葉の奥に確かな評価の響きが混じっていた。

 

「それに、小説を出してるんでしょう? プロの作家さんだなんてすごいじゃない」

「いえ、まだまだ新人ですから」

 

 恐縮して頭を下げると、今度はゴワスの父親が低い声で笑った。

 

「いや、十分立派だ。高校生で作家なんて、聞いたことがないぞ。それに、隆盛から聞いたが漫画の原作までやってるんだろう?」

「はい。雑誌連載として動き出す予定です」

「すごいなぁ。しかも成績も上位なんだろう? 学年で五位以内だとか」

 

 ゴワスの両親は楽しそうに笑う。

 

「目標を持って、それを努力で形にして……ちゃんと勉強も両立させてる。大したもんだよ」

「隆盛も見習わないとね」

「は、ははっ、そうだな……」

 

 ゴワスの母親の穏やかな声に、ゴワスは引き攣った笑みを浮かべる。

 箸を動かしてはいるが、目は皿の上に落ち、視線は定まらない。

 さっきまでゲームに熱中していたときの勢いは、もうそこにはなかった。

 魚の衣を箸で突きながら、どこか居心地悪そうに背中を丸めている。

 

「……立派な友達がいるんだから、お前も将来のことをしっかり考えるんだな」

 

 ゴワスの父親がそう口にした瞬間、空気が少し張りつめた。

 ゴワスの手が止まり、視線は皿の上に釘付けになる。

 

 表情は読み取れない。だが、その沈黙が彼の胸の中を雄弁に物語っていた。

 

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