疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
保健室のカーテンを開けると、白いシーツの上にヨシノリが横たわっていた。
カーテンの隙間から差し込む夕陽がベッドを淡く照らし、蛍光灯の白い光と混じってどこか現実感のない空気を作り出している。
健康的ないつもとは違い、顔色は青白い。
ベッドに近づくと、微かに漂う汗の匂いが鼻を掠める。
「ヨシノリ……大丈夫か」
声をかけると、長い睫毛がわずかに揺れ、彼女が瞼を開いた。
「……あ、カナタ」
弱々しく名前を呼び、かすかな笑みを浮かべる。
けれどそれは、無理に作ったような笑顔だった。
「散々俺に体調のこと説教しておいてこれかよ」
「ごめん。でも……どうしても部活とコスプレの両立が難しくて」
布団の中で握りしめられた手が震えている。
「……ラッシャイシティで、コスプレイベントがあるんだ」
「ラッシャイシティって……池袋のあそこか?」
ラッシャイシティといえば、モンスターテイルズのグッズショップであるモンスターラボや水族館、イベントホールも入った巨大商業施設だ。
ヨシノリは目を伏せ、小さな声で続けた。
「最近は、練習終わったあと夜中まで衣装作って……体も絞ろうとして、食事も減らしてた。そしたら倒れちゃった、ってわけ」
彼女は自嘲気味に笑ってみせたが、笑い声はひどく掠れていた。
「コスプレ衣装、既製品じゃダメだったのか?」
「今回やりたいのがなくてね。それで仕方なく手作り」
「キャラを変えるのはダメだったのか?」
「うん。どうしてもやりたかったから」
「なら、仕方ないな」
クオリティで妥協できないのは、クリエイターの性みたいなものだ。
妥協をできるようにならないと作品が完成しないから〝折り合いを付けること〟を覚えるのも今後は大切なんだけども。
「ただ飯はちゃんと食えよ」
「いや、その、今回コスプレするキャラに合わせて身体作りをしてたから、その、ね?」
「そこまでやる気だったのかよ」
せっかく良い感じに肉ついてるんだから、落とすのはもったいない気もするんだけどなぁ。
「流動食でもいいから栄養だけはとっておけ」
「……さすがにミキサーで流し込むのは無理なんだけど」
「そもそも、ヨシノリはバスケやってるから下手に食事抜いたらエネルギー切れ起こすに決まってるだろ」
「返す言葉もございません」
ヨシノリはバツの悪そうに布団に潜り込んだ。
「でも、ヨシノリがそこまで本気になれるってことは良いことだ」
「え?」
俺の言葉にヨシノリが布団から顔を出す。もぐら叩きかよ。
「ヨシノリの最終目標がどこかはわからないが、結果が出るまでやるのが努力だ。だから、ヨシノリがどういう結果を出すのか楽しみにしてるよ」
ヨシノリの瞳が大きく揺れた。
その奥に、安心と戸惑いが入り混じった色が浮かぶ。
しばしの沈黙ののち、布団の中で握った手がわずかに力を込めてきた。
「ありがと、カナタ。昔から、そうやって一番大事なときに欲しい言葉をくれるよね」
その声は、泣き笑いのように震えていた。
「そうか? 俺は自分のやりたいようにやっているだけだけど」
「それが真っ直ぐなのがいいんじゃない。うん、元気出てきた!」
「嘘つけ。まだふらふらじゃん」
起き上がろうとするヨシノリを慌てて抑える。
「とにかく今は寝ておけ。体力を回復させることも必要なことだろ」
「そうだね。おとなしくする……」
どこか不満げな顔のままヨシノリは布団をかぶり直す。
ふむ。それにしても、コスプレイベントか。
せっかくだし、縁のない界隈を覗いてみるのもいいかもしれない。
それも小説の糧になるしな。