疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
週末。俺とヨシノリは電車に揺られてラッシャイシティへ向かった。
ラッシャイシティ周辺は、人でごった返しているがコミケと比べれば大したことはない。
休日のレジャースポットと思えば、このくらいのものだろう。
「へぇ、なんかコミケとはまた違う空気感だな」
「あのカオスな感じもあれで悪くないけどね」
ヨシノリの目は、緊張と期待で輝いている。
更衣室の列に並んでいると、不意に声をかけられた。
「ヨシノちゃーん!」
振り向けば、同い年くらいの女子が手を振っていた。
見覚えがあると思ったら、一年A組の生徒で手芸部に所属している後藤麻白だった。
後藤は以前、夏コミでくっころ飯のヒロインであるアイシャのコスプレ衣装を作成してくれた。
ヨシノリとはそのときに仲良くなったのだろう。
「シロちゃん、お待たせ!」
「私も今来たとこだよ。あっ、そっちは文化祭の癖ぶっ壊しヴィラン君じゃん」
「誰がヴィランだ。せめてくっころ原作者で覚えてくれ」
「それもそれで大概でしょ……」
俺の隣でヨシノリがジトっとした視線を向けてくる。
なんだよ。そんな顔したって可愛いだけだぞ。
「ヨシノちゃん。女バスの練習あるのに衣装完成させるの大変だったでしょ?」
「うん。なんとか間に合ったよ」
「よかったぁ……」
どうやら後藤もヨシノリが無茶をしていたことは心配していたらしい。
あまり強くないとはいえ、一年で女バスのスタメンになったのだ。衣装作成と練習の両立は誰から見ても厳しいと思うだろう。
「師匠も来てるの?」
「うん。先についたから着替えてから来るってさ」
「じゃあ、あたしたち着替えてくるから」
「おう、いってらっしゃい」
俺は持っていたキャリーケースをヨシノリに渡すと、ヨシノリと後藤が更衣室へと消えていき、残された俺はコスプレイヤーが盛り上がる中で所在なさげに立ち尽くしていた。
まるでアニメキャラクターが現実にいるような中で、一般人の俺はどうにも落ち着かない。
手持無沙汰に今日のコスイベのパンフを眺めていると、不意に声をかけられた。
「迷子ですか?」
柔らかな声に振り向けば、長いウィッグを揺らす華やかなレイヤーが立っていた。
おお、このキャラは〝ジュラシック・イリーガルズ〟のヒロイン、長渕潮だ。ちなみに彼女の恐竜能力はプレシオサウルスである。
ガッツリ戦闘するヒロインということもあり、俺はかなり好きなキャラだった。
「あ、いえ……ちょっと待ち合わせで」
「それなら良かったです」
潮レイヤーのお姉さんは微笑むと、近くの柱を指差した。
「ここ、人の流れが多いですから。待つならあっちのベンチの方が落ち着けますよ」
「……ありがとうございます」
素直に礼を言って、指された方向に視線を向ける。確かに人混みから外れ、休憩している参加者がちらほらいるだけだった。
「そういえば、そのコス
「ありがとうございます。潮ちゃん好きなので、そう言っていただけると嬉しいです」
「いいですよね、潮。まさに少年漫画のヒロインって感じで、小池悠一先生も気に入ってるのか、可愛いけど格好良くも描いているというか……」
「わかりますわかります! 主人公の
ほう、この潮レイヤーのお姉さん。かなりわかる人と見た。
「ハクアレギオン編は名シーン製造機ですからね。良久人の竜印〝群雄割拠〟の解放シーンとかゲキアツじゃないですか?」
「あぁぁぁ……わかるぅ、わかりすぎてやばい……っと、つい熱くなっちゃいました」
お姉さんは口元を手で隠して照れ笑いを浮かべる。その仕草がまた、潮そのものに見えるから恐ろしい。
「いや、俺もめちゃくちゃ語れて楽しかったです」
「ふふっ。こうして分かってくれる人に会えると嬉しいですね。あっ、僕はMAOっていいます」
「MAOさん、ですか。俺は田中カナタです。今日は幼馴染の付き添いできました」
「幼馴染? ていうか、田中カナタって……」
「俺の幼馴染、コスプレやってるんですよ。ヨシノリ……じゃなかった、芳野リサトっていう――」
「あっ、師匠!」
背後から弾んだ声がして振り返ると、さっき更衣室へ入っていったヨシノリが、すでにカミラの衣装を纏って立っていた。
赤いドレスが翻り、髪を揺らしながら駆け寄ってくる姿は、原作からそのまま抜け出したかのようだ。
なるほど、確かにまだ〝カミラの聖剣〟の連載始まってないからどこにも衣装は売ってないわな。
「早いね、ヨシノさん」
「師匠こそ、早いじゃん! あ、カナタももう会ったんだ」
「し、師匠?」
俺はMAOさんとヨシノリの顔を交互に見比べる。
「あはは……ネットで相互フォローになっていろいろ教えているうちに何故かそう呼ばれるようになってね」
彼女を師匠と呼んで目を輝かせるヨシノリとは対照的に、MAOさんは困ったように苦笑していた。