疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第270話 原作から飛び出した存在

 イベント会場の一角、撮影スペースは熱気と閃光に包まれていた。

 背景紙の前では、思い思いのキャラに扮したレイヤーたちがポーズを取り、カメラのシャッター音が絶え間なく響いている。

 

「次、行こうか」

 

 控えめな声で促したのはMAOさんだった。

 ヨシノリは頷き、裾を整えながら立つ。その瞬間、ヨシノリの表情が変わった。

 先ほどまでの緊張が嘘のように、堂々とした眼差しでポーズをとる。

 風が吹いてドレスがふわりと舞った瞬間、周囲から小さなどよめきが上がった。

 

「おお……」

 

 思わず息をのむ。

 見慣れているはずの幼馴染が、まるで原作から飛び出した存在にしか見えなかった。

 ヨシノリは次々とポーズを決めていく。

 

「今の表情めっちゃいいですね!」

「もう一枚お願いします!」

 

 その姿を見ていたカメラマンたちは夢中になり、列がどんどん伸びていった。

 

「初参加なのにすごい人気だな」

「ヨシノちゃんの衣装は完成度高いからね。それに表情の作り方が上手い」

 

 隣に並んだ後藤が話しかけてきた。合わせのつもりで来たのか、カミラの聖剣の主人公であるアランのコスプレをした彼女は、笑顔でヨシノリに親指を立てていた。

 

「一緒に撮ってもらわなくていいのか?」

「もちろん撮ってもらうよ。でも、今はヨシノちゃんのソロターンだから合わせはこの後」

 

 サラッと流してしまったが、後藤のコスも中々にレベルが高い。

 ブーツで身長を底上げしているし、鎧や剣の質感もリアル寄りだ。

 

「後藤。さすがに手芸部の域を超えてないか?」

「ああ、こっちの小道具とかそういうのはお兄ちゃんの得意分野。その代わり衣装系は私が作ってるの」

「コスプレ兄妹かよ」

 

 兄妹で得意分野が違って補い合えるとは羨ましい限りだ。

 俺なんて愛夏に生活面ではおんぶに抱っこである。そして、俺からは特に恩恵は与えられていないという。

 テイクアンドテイクじゃねぇか。

 

「それじゃ、そろそろ私も混ざって撮影だ」

「楽しみにしてる」

「私たちからしたら原作者の田中君は神だからね。神に満足してもらえるようばっちり決めてくるよ」

 

 後藤は勝気な笑みを浮かべると、ヨシノリの元へと向かう。

 二人が合わさってポーズを取ると、本当にカミラの聖剣の世界が再現されているかのようだ。

 それにきちんとキャラを再現するための工夫も見受けられる。

 

 ヨシノリは女子にしては高身長だから後藤が上げ底を履いたところで身長差は埋められない。

 だから、身長の高いヨシノリが内股になって身長を調整し、撮影場所も段差がある箇所を選んで原作通りの身長差を再現しているのだ。

 そこには本気でやっているからこその技が詰まっていた。

 

 しばらくして写真撮影の波が一時的に途切れる。

 どうやらカメラマンの人が列切りをしてくれているらしい。

 

「わぁ……このキャラ初めて見たけど、すごく綺麗!」

 

 近くにいた別作品のレイヤーさんが声をかけてくる。

 

「衣装、どこで買ったんですか?」

「えっと、自作です」

「えっ、自作!?」

 

 一瞬ざわめきが起き、ヨシノリは慌てて笑う。

 

「拙い部分もあるんですけど、好きだから頑張りました」

「すごいなぁ……もしよかったらフォローしてもいいですか?」

「ぜひ!」

 

 そのやりとりを見て、胸がじんわりと熱くなる。

 ヨシノリは俺の知っているヨシノリのままで、けれど今は自分のやりたいことを全力で楽しんでいた。

 まるで水を得た魚のように、仲間の中で自然に笑っている。

 

「お疲れ。大人気だったな」

 

 休憩スペースに戻ったヨシノリへタオルを差し出す。

 ヨシノリは汗を拭いながら、肩で息をしつつも満面の笑みを浮かべている。

 

「あー、楽しかった! カナタ、見てた?」

「見てた。すごかったよ。原作者冥利に尽きるな」

 

 気恥ずかしさを誤魔化すように笑いながら、俺は正直な感想を口にする。

 

「ヨシノリがあんな顔してるの、初めて見た」

「え?」

「好きなことを本気でやってる顔だよ。だからさ、もっとやったらいいんじゃないか」

 

 その言葉に、ヨシノリは少し照れて目を逸らす。

 

「そうだね、うん。あたし、もっとやってみたい」

 

 その姿を見て、俺の胸に自然と決意が芽生える。

 こいつがやりたいことを全力でやれるように、俺は応援しよう。

 小説を書くときもそうだ。応援してくれる人がいたから、ここまで来られた。

 

 だから今度は俺の番だ。

 ヨシノリが胸を張って笑える未来を、絶対に支えよう。

 

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